第4話 とある休業日の工房にて
休業日の店に明かりはともってない。しかし、中から人の声は聞こえてくる。
店の奥にある工房で三人の人物が小型携帯ゲーム機に熱中していた。
「だぁーーっ!死んだ!」
雷が悔しそうに天を仰ぐ。その横でヴェノムは画面に集中している。
三人がしているのは人気のオンラインFPSゲームだった。
「エイムが弱いんだよ。2スコでも当たる距離だぞ今の。」
「俺、銃に関してはリアルでもからっきしだもんな。こっちなら多分鵜丸の方が上手い。もうぶん殴った方がはえーよ。」
ヴェノムが冷静に切り返して、雷を撃った敵からヘッドショットでキルをもぎ取った。
早速キルした敵の物資を漁る。
「ヴェノっち7ミリ弾ある?あと30発しかない。」
もう一人の人物がヴェノムに話しかけた。
「こいつが結構持ってる。多分もう敵いないから漁りにこいよ。」
ヴェノムが操作するアバターの隣に別のアバターが近寄ってきた。ピンクと赤の派手な髪色にカスタマイズされていた。
これを操作しているのはヴェノムのすぐ隣に座る赤い髪をツインテールにした少女だ。ただでさえ派手なのに、蛍光グリーンのメッシュもはいっている。
「らいらいせっかくAKMのフルカス持ってたのにもったいないねー。アタッチメント貰ってくよ。」
この少女はヴェノムのことは「ヴェノっち」、雷のことは「らいらい」と、なにかとあだ名を勝手につけて呼ぶことが多い。
「おう、アタッチメントだけじゃなくて物資も漁ってけネメシス。使わなかったマグナム残ってるからよ。」
「ありがと。」
少女こと、ネメシス・アンバーが今度は雷の物資を漁りにいった。
ネメシスもこのアウトシティの住人のひとりだ。
「うわ、どんだけ手榴弾持ってんの?めっちゃあるじゃん。…………スモークなら欲しいんだけど。」
「あいにくミスって炊いたからもうないな。」
ネメシスは雷が集めていた手榴弾は一切拾わず、マグナム弾層と持っていたスナイパーライフルを交換した。
雷が持っていたのはボトルアクション式のスナイパーライフル、L96A1。別称AWMである。
「AWMってほんとは7.62mmはいるんだけとな。そこが不便だから俺そんな使わない。」
「入ったらゲームバランスがAWMとったら勝ちになるよ。超強化ベストとヘルメット以外なら1発で抜けるもん。」
ネメシスはせっせとカスタムをし直す。ゲーム終盤でたんまりと物資はあるので余裕でフルカスタムが揃った。
「あ、北側に物資落ちたよ。」
「早めにとって後から来るやつら狩るか。」
ヴェノムとネメシスは颯爽と車に乗り込んで物資に向かって一直線に走る。雷は観戦モードでそれを見ている。
近くに落ちたので物資にすぐにたどり着いた。ネメシスがスコープを覗いて見ても特に人影は見えなかった。
二人は物資を漁り始めた。
「やったぁ!!新武器だ!バレットM82!使っていい?」
「いいぞ、持ってけ。」
今日からゲームで新しくスポンすることになった武器、バレットM82。
対物ライフルとして分類される、12.7mm弾を使用する狙撃銃だ。ゲーム外でも実在する。
ネメシスはこれが実装されると知った時からずっと楽しみにしていたらしい。
「とりあえず強いところ行くそ。山上にアンチが寄りそうだ。」
「おっけー。」
この時点で残り生存者は15人になっていた。そして、二人が山上を陣取った時には10人になっていた。
「お、早速物資の残りに向かってる奴がいるぞ。」
「待って、私撃ちたい!」
ネメシスが操作をして組み立てを開始する。
実装されたバレットM82の特徴は超強化ベストやヘルメットでもほぼ1発で相手をキルさせることが可能なほどの高い威力を誇るが、射撃条件が伏せか台の上などに限られている。
そして、それに伴い組み立て時間というものが存在している。
ヴェノムはこれを聞いた時、扱いにくい銃が実装されたと感じたのだった。
そんな代物でもネメシスは正確にヘッドショットを決めていき、物資に寄ってきた1チームを壊滅させた。
画面の横に小さくキルログが流れた。
「ナイス。」
ヴェノムがそう言うと、ネメシスが笑顔で親指を立てた。既に残りは5人。
二人は残る敵チームもどんどん撃ち抜いていき、ついに勝利を勝ち取った。画面に金色でVictoryという文字が浮かび上がっていた。
「いいよな。二人とも上手くて。」
雷が羨ましそうに画面を見ていた。
「雷が下手くそなだけだ。」
今日はたんまりFPSをしたので三人は一度中断した。戦績は5回マッチして一位が4回であった。上出来である。
ちなみに雷は全試合途中脱落している。
「ヴェノっち、今日リボードおじさんいないけどどうしたの?」
この店の二階には居住スペースが二部屋あり、一つはリボードの自宅、もうひとつはヴェノムが借りていた。店が休みでも基本ここにこればリボードに会うことができる。
しかし、リボードは今日は朝早くから出かけていってしまってその姿はない。
「あー、品出しだ。注文されていたやつ届けに行った。アンティーク銃で手に入れるの大変だったって言ってた。」
「どこに卸に行った?」
「さぁ、詳しくは聞いてないけど多分常連のとこだな。」
この店の常連となると、だいたい限られてくる。雷とネメシスはそこから取引先を予測した。
「じゃあ………雨夜ちゃんのとこ?」
ネメシスが予測を口にすると、ヴェノムが頷いた。
「そうかもな。本人かどうかは知らないけど。」
「多分そうだよ。雨夜ちゃんアンティークのショットガン欲しいってうちにもきたし。けど、おじさんとこはアンティークはライフルしかないから多分ここに来たんだよ。」
ネメシスは近所のライフル専門店店主の姪っ子で、そこの店主と二人で暮らしている。
ヴェノムもカスタマイズの仕事を紹介してもらうことがあるので顔なじみだ。
「雨夜のやつ、アンティーク銃集めてんのか。洒落てんな。」
「アンティークってよりありゃ重度の銃器オタクだ。軍の横流しのやつも集めてる。」
「けどあまちゃん射撃とかは誘ってもそんなにこないんだよねー。打ってなんぼじゃないの?」
ネメシスがエアで銃を構える仕草をする。この構え方はライフル銃だ。
「お前がトリハピなだけだ。銃のコレクションと射撃じゃ部類が違うし、射撃場ではお前と一緒にいたくないだろ。」
ネメシスはリアルの方でも射撃場に腐るほど通っていて腕も大会で入賞したりするほどだった。銃器に関してネメシスが詳しいのはこういうことだ。実際にバレットM82も打ったことがあるらしい。
しかし、ネメシスは射撃場でたまに奇声じみた笑い声をあげながら的に向かってマシンガンを乱射している。
ついつい、ハイになってしまうらしい。
ヴェノムも射撃はたまにしに行くが、ネメシスには悪いけど一緒に行きたいと思ったことなかった。
「なにそれ、ひどーい。」
ネメシスはそのまま口で銃声を再現して、エアライフル銃を撃った。
それに雷が撃たれて苦しむような演技をとる。
「んで、リボードおじさんどのくらいで帰ってくる?」
「時間とかなんも聞かなかったけど。………夕方には帰ってくるんじゃね?」
「ふうん。じゃあ今日は無理そうかな。おじさんが話したいことあるから、今日は空いてそうなら会いたいって言ってたんだけどね。」
ネメシスはタッチパネル式の携帯端末を取り出すと、チャットアプリを開けて素早く文字を打ち込み送信した。
彼女の携帯のカバーは弾痕を模したデザインになっている。
メッセージを送信するとすぐ既読がついた。そして感謝を示すスタンプが送られてきた。
「おう、そういやヴェノム。この前頼んだあれどうなってる?」
ふと、雷が思い出したように口を開いた。
「ああ、あれな。大方できてる。……まってろ、持ってくるわ。」
ヴェノムが席を外して、何かを取りに自室に戻った。しばらくして現れた時には黒い筒状の物を手に持っていた。
「なにそれ?」
ネメシスがそれを指さした。
ヴェノムがそれを雷に渡した。雷はしばしそれを眺めた後、慣れた手つきでスイッチを押した。
すると、バチッという音と共に小さく稲妻が発生したと共に黒い筒が変形して長く伸びていく。
稲妻が収まると共に、雷の手の中は一本の打刀が収められていた。
「形状記憶合金と超圧縮技術をつかった電磁刀だ。京極の幹部以上のやつらはだいたいこれをつかった刀を持っている。」
ヴェノムがそうネメシスに説明を入れた。
雷の大太刀も同じ仕組みである。
「俺はよくわからんけどな。親父が技術を盗用してきて、俺に変わる少し前に完全に導入したんだよ。」
雷が軽く素振りをした。鞘に収められているので周りを傷つける心配はない。
「へぇ!すっごい!!」
ネメシスが目をキラキラとさせて打刀を見つめる。
「けど、電磁刀は電磁波を使って切ったときのダメージを増幅させるやつだから当然電気がいるわけだ。圧縮技術に使えるバッテリーは小さいのしかないから電池の持ちが悪い。そこが課題かな。」
ヴェノムがポケットから手帳を取り出して、そう読み上げた。手帳の空所にはいろいろ何かを計算した痕跡が残されてい。
「はぁー………どーしたもんかなぁ………。現時点でその大きさだと稼働時間はギリ35分。待機時間も考えるともっと短くなる……。」
ヴェノムが頭をぐしゃぐしゃと掻いた。ただでさえ乱れ気味の薄い茶髪がさらに乱れる。
「圧縮技術って今の軍隊とか一部の自警団で採用されてるやつって授業で習ったよ。そんなら、またどっかから盗用できないの?ヴェノっちコネあるでしょ?」
「大型の機械なら多分できるけどな。ロケランとか。そんなんばっかで正規でも小型化はそこまで進んでいない。」
ヴェノムが近くの机に置かれていた。図面をネメシスに渡した。図面の中身はあの打刀だ。
ネメシスはざっと内容をみると、それをヴェノムに返した。
「なるほど………。いまの現状でもかなり小型でなるべく長時間持つやつ使ってるのかぁ。電気の出力とかも考えると携帯なんかのバッテリーじゃ無理ね。」
ネメシスが腕をくんで考え込む。
彼女は今、通信の学校で工学を選考していて、技術者志願であった。
ヴェノムは瞬時に細やかに分析し熟考するネメシスにエンジニアとしての素質を見出していた。
おそらく、将来はかなりの腕利きになるだろう。
「雷の電磁刀「太夫」は雷自体がバッテリーみたいなもんだから結構むちゃくちゃいけたんだ。今回はそうとはいかない。この「禿」の持ち主は鵜丸だ。」
雷の能力は帯電と放電であった。電磁刀に電気を流してしまえばそのまま使えてしまう。
能力検査を受けてないのでちゃんとしたランクはわからないが、太夫を不自由なく起動させるだけの出力があるのでおそらくB以上は確定だった。
「鵜丸も俺と似た能力だったら良かったんだけどな。あいつはお袋のやつを引き継いだ。」
雷が再びスイッチを押すと、禿は稼働を停止してあの黒い筒に戻った。
「どうだ?持ってみた感想は。軽量化はいい素材が手に入るようになったから結構スムーズにいったよ。それで展開時でだいたい1キロくらいだ。」
「ああ、問題ない。この重さならたぶん鵜丸でも使えるな。」
「軽量化なら太夫も使えるけどどうする?パーツ変えるか?」
太夫の展開時の重さは現時点で4キロを超えている。昔よりは軽くなっているといえど振り回すにはなかなかの重さだ。
しかし、雷は首を横に振った。
「また一回鵜丸を連れていろいろ試させにくるわ。………ほんとは今日でも良かったけど、あいつ友達と遊ぶっていって出かけていったからさ。」
雷はヴェノムに禿を返した。
「おう、じゃあそれまでにまた改良しとくわ。」
ヴェノムはまた禿を戻しに自室に戻っていった。
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