第8話 未来期待少女

未樹と亜沙子、授業前の駄弁りタイム。


「ねー、未樹。そろそろその不安癖やめないー?」


「そんな事ないよ、いつか皆気づくよ。昔に戻したほうがいいって」


「えーでもそれって、今更、石持ってマンモス狩りにいくったって

そのマンモスがいないじゃん」


亜沙子、いきなり旧石器時代にタイムスリップ。


「ま、マンモスがいなくたって象がいるもん」


マンモスがいなければ象を食べればいいじゃない。

ミキ・アントワネットの素晴らしい言葉である。

ちなみに、マリー・アントワネットの例の発言は一説によると、寄付した時に発言したとされるから、頭痛が痛くなるような人ではない。


「じゃあ、動物園で象見られなくなるじゃん」


「背に腹は変えられないのよ、訳のわからない化学添加物で死ぬよりましよ!」


「てかもう、科学の力で象増やせばいいじゃん」


「食物連鎖が崩れるからダメ。科学はダメエエエエ」


「あー、また未樹ループ入りました。未樹はオカリンになりました」


また不毛な会話の応酬かと思いきや、ここにまた、一人の少女が現れる。


「未樹さん、もう絶望しなくていいんだよ」


「あなた、誰?」


「希坂叶だよ、ちょっと屋上にきてくれる?」


眩しいほどの笑顔を未樹に見せる。二人並ぶと、表情は陰と陽だ。


「未樹、やめたほうがいいよ、授業あるよ」


「止めないで亜沙子、私は自分が正しい事を証明するためにいつだって向かってきた。今回も同じよ」


こうして未樹と叶は屋上へと行った。

学校の屋上は風が揺らいでいた。


「名前からしてすでにむかつくわね、この世界に希があるっていうの?」


「とても未樹さんから信じられないかもしれない。だけど世界は明るいの、いつだって」


「どうして?こんな科学に塗れて、人の心を忘れたような世界に」


「確かに、今はそうかもしれない、いや、そうだった」


「なんで過去形にしてるのよ、目に見えてないじゃない」


「未樹さん、アスファルトに花は咲くと思う?」


「咲かないわ」


「でもね、アスファルトの隙間には生えるじゃない、ほら、ここにも」


叶が指した先にはタンポポが生えていた。


「つまりあなたはなにがいいたいの?」


「共存よ、科学と自然の共存。あなただってわかるでしょ、一度起きてしまったことは変えられない」


叶は変えられないという部分を寂しそうに強調する。

対する未樹は沈黙を保ったまま聞いている。


「だけどね、共存、共栄って出来ると思うの」


「言うことは簡単だよね、それでこの世界が共存、共栄した未来だっていうの?」


「……確かに人は愚かで、気づくことは遅いかもしれない、だけどね。

この私たちがいま上にいるコンクリート。ちょっと触ってみて」


「学校の屋上の工事なんてしてないし、普通のコンクリ……じゃない」


「そうなの、私が開発したんだよ、まだ試験段階なんだけどね。植物が育つコンクリートなの」


「それで環境問題解決したとかいうつもり? 土がなければ虫がいなくなるじゃない」


「この天然コンクリートの素材は土由来で中に虫がいるの、人口で作った土といったほうがよかったかな」


「む、無茶苦茶よ」


「ええ、未樹さんと同じくらいは無茶苦茶かもしれないわ、だけどそれが人類なのよ、失敗してそれで終わりにはならない」


「……気に入らないわ」


目の前で見せつけられても未樹は敗北を認めなかった。そして今後も認めないだろう。


「それでいいのよ」


「え?なんで」


「常に人の不安なんて付き物じゃない?」


叶の表情が優しい笑顔に変わる。


「じゃあどうすればいいの?」


「不安でも、対処すればいいのよ。この環境問題のように」


「ロボット社会やスマホはどうすればいいの?」


「どういう弊害があるか一旦考えるのよ」


「みんな、考えることなんて放棄してるよお」


「でも未樹さんだって、さっきまで放棄してたじゃない。

だからこういうときこそ、呼びかければいいの。人と触れ合わなくなってしまった

こんな時代だからこそね」


「そうだね」


「だから、これから仲良くしよう」


叶はにこやかに手を差し出す。


「すぐには、無理だけどね」


叶の手を振り払う振りをして――手を握った。

その時に、未樹は微かに表情が緩んだ気がした。


「未樹さんに手伝って欲しいの」


「未樹でいいよ、あんたのことも叶っていうね」


「うん。それとね、手伝ってほしいんだ、研究」


「叶の研究の欠点ばっか挙げて、研究にならないんじゃない?」


「それぐらいでいいの、そういう未来への不安が研究には必要だから」


二人に光が差した、その二人の人影に、小さな虫が動いてた。

風が吹いて、その風が植物の種をどこかへ運んでいき、新たな場所でまた

芽吹くのだ。

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2030年の少女 新浜 星路 @konstantan

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