竹山行路

遠くの羅生門より

鐘の音が聞こえてくる。

子の刻の知らせである。


それから間もなく此方は

ひゅろろと背筋が凍るような音とともに

銅鑼の音が鳴る。

空気が割れた。

魑魅魍魎の妖怪が割れた空気の

隙間より溢れ出てくる。

コツン、コツン、コツン

拍子良く鳴る下駄の音が

竹に囲まれた細道に吸い込まれていく。


濃い緑は黄色へと移り変わっている。

竹はパキ、パキと次々に音を立ててゆく

ゆらゆらと今にも消えそうな

淡い火の玉が竹を照らしている。


軋んだ毛並みを揺らし

化け犬や化け猫、化け鼠は

三味線を爪弾きながら

先頭をゆく。

髪の毛が生えた壊れた筑紫箏、

琵琶の頭を持つ老人は

杖をつきながら

奇妙な音楽を奏でてゆく。

その音楽に、表現しがたい獣は

ささら舞を舞っている。

なんとも独特な音楽に

耳は攫われている。


狩衣を着た奴らが次をゆく。

ずしりとした朱の足は

毛むくじゃらで火に照らされ

燃えるような色をしている。

手には3尺ほどの

黒い光沢を帯びた金棒を

携えている。

目玉が飛び出ている

まさに般若である。

その中には蛇の顔を持つ

一際恐ろしき鬼も居た。


西陣織を思わせる着物は

鬼の稚児らが背負う駕籠の中。

黄色い艶のある毛は

気高い妖狐であることを

ひしひしと感じさせられる。

妖狐は此方に気付いたのであろう。

此方を見て口元を緩ませた。


その途端、空が赤く光る。

そして爆音が鳴り響く

耳を塞いでいても鼓膜が破けそうになる。

天狗の咆哮である。

凶事の知らせとされる天狗の咆哮を

聞いた京の町は鐘を何度も鳴らし

降り掛かるであろう凶事から

逃れようとしている。


私はその咆哮が鳴り止んだ後、

気を失い数時間の間、眠っていたらしい。

私は手を合わせていた。

あまりの恐ろしさに服を濡らしていた。

百鬼というには少なかったが

妖怪の恐ろしさを知った。

私は町に帰るや否や

人々に妖怪の恐ろしさを説いた。


町には高僧らが集まり

妖怪の道をお祓いすることにした。

私は、危害を加えない方法が良いと

言ったのだが帝様の命令なら仕方がない。


帝様はお祓いの為の道具を集めるよう

町民に命令をされた。

藻塩、これは瀬戸内伯方島の塩が良いらしい。


再び僧を連れて竹山を訪れたが

確かにあった細道には

姫踊子草が群生しており

石畳など存在しなかった。

あの体験はなんだったのであろうか。

それからと言うもの

妖怪に対する意識は薄れ

人間の生き方は

武家社会へと移り変わって行った。



あの時

土の上に1本の金色の毛が落ちていたのは

誰も知らない話である。

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