独居老人

先日、同級生が死んだのよ。

享年94歳。

94年も生きていた

そう考えると

早く自分も死なねばって。


友人は家族に恵まれ

夏や正月には

家が窮屈に感じるほど

帰省してくるらしい。

そんな友人は

沢山の家族に看取られて

息を引き取ったらしい。

嫉妬してしまうような

羨ましい死に方である。

しかし、友達に嫉妬など出来ない。

彼女は私をどん底から

救い出してくれた。

彼女が居なければ私は

とっくの昔に自殺しているだろう。


私には子供がいない。

私は25の時に子宮がんになった。

結婚して間も無い時であった。

生きるには全摘しか方法はないと言われた。

私たち夫婦は子供を楽しみにしており

名前を考えようとまでしていた。

私は一瞬で絶望の中へと堕とされた。


旦那には

離婚してもいいから。

と泣きながら伝えた。

旦那は無言で私のかつて子宮があった

お腹をさすった。




子育ての費用は

私たちの趣味に充てた。

日本だけでなく

海外にも何度も何度も行った。


旅行をしている時だけは

世間の目を気にせずに

居られた。


子供いないから

遠くへ旅行も楽でいいわねと

言ってきたおばさんも

すぐ死んでしまった。

その言葉が嫌味かどうだったかは

私には分からない



旦那は56歳で亡くなった。

胃がんだった。

私たち夫婦はこれ程までに

がんに左右されなければならないのか。

身体の中に日々生産されるがん細胞へ

憎しみを向け続けた。



私を励ましてくれた旦那や友達は

とうに灰となっている。

死ぬのが若い人から

生まれ変わっていくらしい。

私たちは遅いわねと話したことを思い出す。

また、人間に生まれ変われたら良いけど。


享年 56歳 旦那

享年 67歳 近所のおばさん

享年 94歳 友人

享年 95歳 私

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