第35話 受け入れ拒否の魔法少年
「なにふざけたこと言ってんだよ」
「嗜好品の類いは人それぞれだけど、さすがに冷蔵庫がアルコールで埋まってるのはどうかなと思うよ。君、確かお酒強いよね。アルコール中毒でも狙ってた?」
「人の家の冷蔵庫、勝手に見てるんじゃねえよ」
「ついでに言うとゴミ箱もみたよ。デリバリーで適当なご飯を頼んでるかと思えば、ほぼほぼスナック菓子。君の収入から営まれる食生活とは思えないね」
「ふざけんなこのお節介野郎!変態め!!」
「まあ、かつておんなじようなことしてた身からしたら、お節介やきたくなっちゃってね」
なにか考えがあるのかもしれない。
魔法の展開はなにもない。サハラでさえ意見しないなか、エリーに口を挟む余地もなかった。
「なんのために勉強してきたんだって、自分の存在意義はなんだって。折れて立ち直って折れて折れて折れて折れて木っ端微塵、再起不能」
「黙れ」
「黙らないよ、黙ってなんの解決になるとでも?」
「不快だ」
「そりゃ耳に痛いことをこれでもかって言ってるからね」
カヘンが増幅する。
乱れる感情。対して特に変化がない月影。
「俺にお前の仲間になれとでも言うのか」
「全然、まったく。むしろ仲間になってほしくないし」
傷ついたかお。またも、突き放された、というような。
「僕みたいな思いは、できれば他にはしてほしくないし」
袂から滑り落ちたのは魔法道具だ。ダーツが手に現れる。
「君はやり直せるよ」
「……こんな年でか」
「今だからできるよ」
「偽善の慰めはやめろ」
「口だけなら誰でもできる。信頼してもらうために、実際にやってみようか」
「……職ややりがいでも用意してくれんのか」
「直接的には無理だけど、間接的にはね」
「……あ?」
ぼんやりと、帯に刺さったものを見る。自分は扇であちらは団扇。似ているけれど違う。
カヘン回収という目的は同じながらも、異なる手法をとるように。
「淀んだ全てをリセットしよう。一旦全部クリアしよう。捨てたら前に進めるから。だから僕はその引き金を引く」
「……意味が」
「…………忘れろ」
ダーツが放たれた。
深々と突き刺さり、しかし意識は失わない。
「死神、か……」
「殺さないよ。今の君が死ぬっていう意味では殺し屋かもしれないけれど」
「……なら、願ったり、叶ったり……」
「命はとらないよ、あえていうけど」
第二のダーツが突き刺さる。
一本で終わらないなんてよほどのことだ。
「死んで終わりになんてならない。生きるために一度死ぬんだ」
「哲学の、問答してんじゃねえんだぞ…………」
「多分、目がさめたら楽になるよ。わかるかどうかはわからないけど」
三本め。
苦悶の表情を浮かべている。
「月影、もうやめて……」
「エリーちゃん、援護して。一人じゃとても回収できそうにない」
「サハラは一体なにしてんだ!」
「警察の足止め。マノは?」
「……なんとか、目星がついた」
「そう」
「じゃあ、よろしく。その間にこっちは相手の動きを止めるから」
言うが早いか月影は、団扇を手に取り風を起こした。
あまりの、激しさに、防御しかできない。
「エリー、こいつにありったけ詰めるんだ!」
空間に現れたのは、何世代も前の携帯電話。
「でも、科学製品と、魔法、相性が……」
「大丈夫、信じろ!!」
エリーは意を決し、ステッキを取り出した。
風が弱まっている。
「……克服せよ。五つの束縛」
「……五上分結断ち給え」
輪唱のように呪文が重ねられていく。
「喰らいなさい、二重詠唱魔法!」
「ウールドヴァバーギーヤ・サンヨージョナ!!」
「ウッダンバーギヤ・サンヨージョナ!
携帯電話にカヘンが回収されていく。ディスプレイにはメールや写真がランダムに表示されていく。楽しかったころの記憶。もうもとに戻らない。一瞬が形になり、そして消えていく。
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