第34話 私を必要としてください
今後の活躍をお祈りしています。益々のご活躍をお祈りしております。
すべてすべてすべて。口先三寸。その場しのぎ。ただただ嫌われないだけの、好感度を維持するだけの。
「警戒線突破!ターゲットの家に侵入完了!」
「階段前にペアが三組、階上に四組います」
シオンとサンゴのコンビネーションは相も変わらず最高だった。
伝えられた警備状態は、順当だ。他に監視カメラの類いもあるかもしれない。
早速先発部隊として、一組が飛び出してきた。
「シオン、遠距離いける?」
「大きい方、 任せろ!」
シオンの姿がかき消える。
正面に出てきた二人組のうち、大きいほうの動きが止まった。
作戦、成功。
「ちょ、田中さん?」
ペアの異変につられて足を止めた細い刑事に鉄扇をお見舞いする。
これで一組は沈めた。
「至急、応援要請――」
続いて現れる後発ペア。
大きな人間が、後から出てきた人間一人を締め上げる。
被害者の顔は、驚きと苦痛に歪んだ。
「田中さん、なんで……」
「恨むなら」
エリーはかんざしを一本引き抜いた。
彼らは魔法使いたちの前に出てきただけの、ただの不幸な一勤労者だ。
「魔法を恨んで」
投げ放たれたかんざしは、床に突き刺さると同時に魔法陣を発生させる。
陣の中にいた刑事たちは、意識を失った。
「エリー、俺まで意識を失うところだったぞ」
大きな刑事に憑依していたシオンが戻り、口をとがらせる。
「シオンならなんとかできるでしょう?」
「信頼って受け取っとく」
シオンは笑う。エリーも答えるように微笑んだ。
部屋に押し入ると、ベッドの上のこんもりした布団がうごめいた。
くたびれた布団と厚みを失った枕は、長い間臥せっていたことを嫌でも推測させられる。
乱雑な雑誌と未分類のデータ端末は、ぐしゃぐしゃな気持ちの現れか。
「なに?あんたら」
顔だけを出し、けだるそうにする部屋主は、恐怖感や怒りといったものはない。普通は土足で見知らぬ人間が押し入れば防衛反応のひとつもするだろうに。
「俺を必要としないなら、俺の前から消えてくれ」
なにかが、エリーに突き刺さる。
シオンが重傷を負ったような、物理的ダメージではない。
ただ、なにかが。
「俺じゃなくて俺の遺産目当てなら、勝手にしろ。面倒だから、なにをどれだけ持っていくかだけ申告してくれよ」
あごでしゃくったほうには、プラスチックケースに入った権利書や高級腕時計、宝飾品が無造作に詰め込まれている。
「この家と、俺の臓器以外はくれてやる」
エリーはなにも言えなかった。
「……なあエリー、わかるか?」
「……なんとなく」
「あれだけ金目のものがあっても、カヘンを憑依させるに足るレベルのものは一つもない」
思い入れがないということ。大事にしていないということ。
そして彼のカヘンが。
「今まで見たなかで一番大きな質量ですね」
これまで回収したものよりも、ひときわ大きなものであること。
「……どうする?」
「いつものように、いくしかないだろ」
「そう。エリーちゃんがいつもやってるみたいに」
着流しが前へ抜けていった。
「新手か?まあ俺の前で仲間割れしなけりゃ、おまえも持ってけーー」
「興味ないんで」
ばっさりと切り捨てた月影に、ターゲットも初めて顔色を変える。
「たとえ世間的に価値がある物質でも、対して大事にしてない所有者から盗むのは面白くない」
「……なにを」
「そこの魔法少女は知らないけれど、こちとら人様が大事にしてるものを盗む稼業でね。物質とは限らない」
「命でもとる気か」
「殺し屋と一緒にしないでくれ」
よく通る声で、月影は一点を見据えて口を開く。
「あんたの希死念慮を奪いにきた」
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