第33話 明日は我が身の魔法使い
「ターゲット、位置確認完了。自宅の二階、自室に所在。同時に、警察の重点待機ポイントも共有します」
「了解。エリーちゃん、陽動は任せて!」
「ったくなんで無職がこんな高級住宅街に住んでんだ!」
悪態をついているのはシオンだ。
正直言って珍しい。
「親の遺産相続したからでしょ、ほら、ないものねだりしても仕方ない、いくよ!」
「くそが!!」
サンゴにまでこの始末。
エリーは首をひねって口を開く。
「いやにきついよね~シオンは。貧乏に恨みでもあるの?そりゃ好きではないだろうけどさ」
「血統が最重要視される魔法世界において、マノの家は生粋の魔法使いじゃないからな。突然魔法が使えるようになった家系だ。立場は弱い。公務員になるのは絶望的なくらいにな」
わお。
存外努力家だったらしい。
後ろ盾もコネも皆無だっただろう。
「そんなに厳しかったんだ、エリートなんだねえ」
「そう思いたきゃそう思えよ」
「まあ、成り上がりだよ。正当な努力と、真っ当な評価を得た結果だ」
ストレートすぎる音声は、サハラ。
「皮肉か?」
「そのねじ曲がった見方をどうにかするんだな、マノ。私は仕事においては中立を心がける。気に入らない相手への評価も、私情を挟むなんてくだらない真似をして、故意に変える気はさらさらないね」
「あのさ、何回も言うけど、ここ、現場だからね?稼業に支障がでるようならサンゴさんに通信切ってもらうよ?」
「心配ありませんよ、あの二人はじゃれ合ってるだけですから」
「ああ!?」
双方向から抗議の声があがった。
「ほら、二人ともそろそろ切り上げて」
軽薄さが消えた月影の声が空気を引き締める。
きっとこの夜空の下のどこかで、狐の面をつけ、着流しの裾をはためかせているのだろう。
「祭りが始まるよ」
大輪の花が打ちあがった。
合同作戦の骨子は単純だ。
月影が陽動。警察が気を取られている隙にエリーが侵入。ターゲットと必要とあらば交戦し、そこに月影が合流する。カヘンの暴走を止めた後は、どちらか早いほうがカヘンを回収。その後速やかに撤収する。
「で、今回はなんなの。コンセプトは夏祭りなの?」
変身の度にマジックで長くなる髪は綺麗に束ねられ、薄紫の花の髪留めが大きく存在を主張している。
淡い色の浴衣は膝丈で折り返されて、トレンカとモノトーンのサンダルが合わせられていた。機能性は抜群だが何かがおかしい。
「そうなんじゃねえの。もうエリーが着たい服装が出るってこっちは理解してるから」
「なんって風評被害!」
苛立ちまぎれに、鉄扇で警備にあたっていた担当者を昏倒させる。
「本当のことだろ?というかそいつが一番の被害者だし、もう魔法使ってないし」
「うるっさい!肉弾戦に頼る戦い方させてるのはどこの魔法使いだって話なんだけど」
「まあ俺の魔法が微妙なのは否定しないけど」
長い衣から、水風船が飛び出し、当たった警察官がうずくまる。
「サハラやサンゴが魔法を織り込んで作った魔法道具だ。それを使うエリーは、立派な魔法少女だろう?」
エリーの帯にはほかにも扇が刺さっている。すべて、スペルが書き込まれており、それぞれ込められた意味の魔法が発動する代物だ。
「そういうことにしといてあげる」
「シオン、エリーさん。あともうひと踏ん張りです。月影たちもこちらに向かっています。がんばりましょう」
「おう!」
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