第25話 砂漠の薔薇
「エリーさん、……いえ、彼女と契約関係にある魔法使い」
ダーツを拾い上げた月影は、一転して低い声となる。
「あなたは一度、自分を省みたほうがいい」
キッと睨み付けるシオンは、虫の息だ。
その瞳には、己の正しさを疑わない意思の強さが秘められている。
湊の弁はあながち間違いではない。
月影は、それを飲みこんで口を開いた。
「もちろん、カヘンだけを回収することがベストです。同時に心のケアをして、またカヘンに取り込まれないようにする。理想といって良いでしょう。ですが、それを貫こうとした結果がこれだ」
倒れている湊からは、涙がとめどなく流れ落ちていた。
「あなたが魔法使いであることは疑いようがありません。ですが、カウンセラーではない。カヘン回収か心のケアか。二択なら、あなたはカヘン回収を優先するでしょう」
「……それは」
「つまりエゴなんですよ。万能ではない。魔法少女と信頼関係も築けていない。カヘンさえ満足に回収できない」
「……黙れよ、サハラ」
「耳が痛いことを言われて逆切れしないでほしいものだね、マノ」
声色が変わった月影は、くるりと背を向けたものの、思い直したかのように懐から褐色の物体を取り出した。
硬い薔薇のようなものだった。
「……これで、治るといいんだけど」
湊にかざすと、茶色の粒子が舞い上がる。
「科学製品の塊だからな。魔法道具を使っても、どれくらい効き目があるかは未知数。ただ、やらないよりはましだろうさ」
一人が二人分の口調でかわるがわる会話をしている。湊の容態は目に見えてよくなっていた。
「……サンゴ、あれは」
「回復作用を込めた道具のようです。湊満里奈は心身のダメージが大きい。カヘン回収時の衝撃も止めになって、目覚めたときに廃人になっている可能性もあります。だから彼らなりの後処理でしょうね」
「………………」
そんなこと、考えもしていなかった。
「……さて、仕事も終わったし、こちらは失礼するよ……ん?」
月影はぎこちなくシオンへ近づき、石をかざした。シオンの意思通りに、身体はわずかながら動く。
「残り物ですが、楽になるとは思います」
「月影に感謝するんだな、マノ」
「その身体の持ち主はあなたではありませんからね、それだけです」
月影はマントを翻し、今度こそ姿を消した。
吐息を漏らしながら、シオンは身体を引きずり窓へ近づく。
無理矢理仕事に連れてきたのだから、魔法少女だけは、無事に逃がさなければならない。
「シオン、防御魔法を――」
「サンゴでもできないくらい、この身体に魔法が効かなくなってるんだろ、なら、逃げるだけだ」
「警察が、もう」
間に合わないのか。飛びそうな意識のなか、次善の策を打ち出した。
「サンゴ、頼みがある」
「はい」
「魔力をエリーのフォーム維持にあててくれ」
それは、シオンを二の次にすることを意味する。
「わかった」
決断は一瞬だった。
魔法少女エリーが、窓に手をかけたとき、扉がばんと開け放たれた。
「魔法少女エリー、住居への不法侵入その他の容疑で、現行犯逮捕する!」
ひんやりとした感覚が、エリーの手首にかけられる。
その瞬間に、シオンの意識は消失し、魔法少女の身体からは力が抜けた。
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