第22話 魔法使いの素顔

「……なにそのべったべたな展開!あり得ないでしょ。キャラ違いすぎだし」

 あの意味不明な高すぎる自意識の月影と、穏やかな古城は似ても似つかない。

「……前に言ったよな。サハラの魔法は人心掌握の魔法だって」

「……古城さんが、操られてるとでも?」

「可能性は高いです、エリーさん」

 そんなの、人付き合いが壊滅的に苦手なせいで、対人関係がぶれぶれなだけかもしれないじゃないか。

「……私はそんなの信じない」

「でも状況証拠は揃ってる。昨日、酔いつぶれた女性をあいつはおぶって運んだよな?このまえ野菜を預けたときはふらついてたのに。短期間でそんなに力は変わるのか?」

「……がらにもなく、カッコつけたかったんじゃないの」

 他に男性がいなかったから。

 女性がおぶるより、男性がおぶるほうが、基礎体力的には理にかなっているから。

「じゃあ聞くが、もやしっぽくしんどそうにしてたか?してなかったろ。サハラの魔法で操られて、体力も増強させられてたからだ」

「穿ち過ぎ。そんなの、わざわざする証拠がない」

「エリーを探るためだ」

 今までのことが、全部色褪せていく。

 全て、そのためだけに近づいて。

 必要があったから関わりを持ったとでも。

「記憶がない、とお互い言っていたでしょう?あれは、サハラさんと私の防御魔法が反発しあった結果です。お互いに、魔力反応が漏れないように、しかし何らかの魔力反応があれば反応するように仕込んでいた。いわば、均衡した状態で綱引きしたようなものです。どちらかの勝敗が決するより先に綱が切れて、お互い吹っ飛んだ」

 そんなの、関係がない。

 魔法使い同士の代理戦争をしているようなもの。

「……だから?」

「え?」

「……だから、なに?」

「……エリー」

「シオン、サンゴさん。じゃあ私にどうしてほしいの?」

「それは……」

 言い淀んだサンゴとは対照的に、シオンは仏頂面だった。

「警戒をしてくれ。あっちが寝首をかきにきてもおかしくはないんだ。逆に、こっちも隙あらば……」

「そっちの都合でこっちに干渉しないで!!」

 感情が爆発する。

 ああ、こんなの三十路の人間がとる態度じゃない。だけどももういっぱいだ。

「それは」

「いいから出てって。出てって出てけ!」

「行きましょう、シオン。……また改めて来ます」

 シオンはみるみるうちに壁の向こうへ吸い込まれた。

 サンゴの気配もない。

 正真正銘、一人になった。

「…………はっ」

 ぺたんと座り込む。フローリングが冷たさを伝えてくる。

 別に魔法使いに憧れているわけでもないし、活動が楽しいわけでもない。誰かのためにはなっているんだろうけど、自分のためになっているかといえば謎だ。

 そんな魔法少女なら、きっといらない。

 なりたくない。


学院卒業後、ストレートで公務員となれる者は多くない。今年は二人も出たということで、シオンとサハラはそろって母校へ講演に赴いていた。

そして休憩時間、わずかな隙をつき、在学時に集まった部屋に身を寄せている。

「で、なんだよ、夢枕に立ってたのは」

「目立つことをしてくれるな。まずはそれをみろ」

「…………学院卒業目録?」

「二重線がひかれているところ、あるだろ。そこを指でなぞって」

言われたとおり、◼◼◼・エイと書かれた名前をなぞる。

一部、線で文字がつぶれて読めない。

「……なっ!」

肖像画が現れた。実技のロールプレイングの際と同じ人物の。

「単刀直入にいう。二重線で名前を消されるのは卒業資格取り消しだ。重犯罪をおかしたとかでな」

唇に手を当てて、サハラは小冊子を開く

マル秘、重要。上級公務員用法規集。

「………………!」

指差されたところは、超法規的措置の項目だった。

犯罪者は、持ち得る魔力によっては捜査協力の代わりに生命と生活を担保される。

自由がなく、外界に出られない特別公務員として。

「この話は終わりだ」

「……いや、俺からはある」

「…………?」

「あの、夢枕に立てる魔法具、一つくれないか?」



 明かりのついていない部屋に、人影が2つある。

「……ユイ」

「はい」

「また僕を操ったね?」

「敵を知るのに合理的な方法だよ」

「……僕はそんなこと」

「したくないって?契約したことを忘れたとは言わせないよ」

「…………」

「進歩してるじゃない。ろくに家から出られなかった人間が、仮面をつけているとはいえ外出して、人とコミュニケーションをして。なりたい姿に近づく手伝いをしているのだから、少しくらい身体を使ったくらいで文句を言うなよ」

「確かに、ギブアンドテイクの関係でいようと言ったけど。それでも、相手があることには、使わないでほしかった」

「…………ひとりじゃなにもできないくせに」

「…………傷つけてしまうなら、なにもできないほうがいい」

「…………ふんっ」

 鼻を鳴らすと、魔法使いは掻き消えた。


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