魔法少女の中の人、飲み会幹事をする

第17話 ライバル、または。

「なんだか幅が出てきましたね」

「そうかなあ?」

 TV通話の向こう側では、世辞ではなく本心からの褒め言葉を言っている表情をしていた。

 作品にここまでお褒めの言葉をもらえるのは初めてかもしれない。

 もちろん、最近の社会まほうしょうじょ経験の賜物なのだけれど、口が裂けても魔法少女活動をしているなんて言えない。

「あと、このライバルがいい味だしてます」

 これも、月影をモデルにしたなんて言えない。

 血を見ることまったなし。

「最近、人物造形がワンパターン化してきたんで、心配してたけど無用でした」

 それはどうも。そりゃあ、社会との接点があまりない、引きこもり在宅ワーカーだったから。

 けれども微笑んでスルーするスキルくらいはこの三十年で身に着けている。

「みどりさんこそ、最近大丈夫ですか?」

 化粧でうまくごまかしているものの、彼女の目には疲れを映していた。

「ああー、恋人不足ですね」

 やっぱり。

 その原因の一端となってしまっているので、少し気が滅入る。

「ごはんも夜はポテチで済ませてしまいますし」

「今聞き捨てならないことをさらっと言いましたね?」

「最近はきな粉味とかいろいろあって日替わりでも全然いけますし」

「なお悪いです」

自分のインスタント食品三昧がましに思えるレベルだ。

「だめですよ、ちゃんと食べなきゃ!」

 トマトともずくのレシピを送ってきた人とは思えない。

「誰かと一緒だったら食べる気も起きるんですけどね、出版社の編集職ってそもそも帰り遅いし」

 冗談じゃない。この人が一番一緒に働きたい編集なのだから、身体を壊されたらたまらない。

「もう今日は私の家で食べてってくださいよ」

「え、悪いですよ」

「いや、むしろありがたいんです、一人暮らしでは処理できないほど野菜が余っちゃって」

「……じゃあお言葉に甘えて。九時くらいに行きますから」

「ではそれで」

 電話を切った。

 ふっと気配を感知する。

「エリー、料理できるのか?」

「とうもろこしをゆでたのと、ジャガイモをふかしたのと、もやしをゆでたのと……」

「それは料理というより素材を加工したといったほうが正しいのでは?」

「サンゴさんまでそういうこと言わないで!料理、なんです!」

「サンゴが作ったほうが早くねえか?」

「それは否定しませんが、私の味覚はたぶんエリーさんたちと合いませんからね」

 魔法使いの主食がなんなのか、怖くなったので聞かないでおく。

「そんなふうに言うんだったら、シオンが手伝ってよ」

「だめだめ、俺たち魔法使いは、科学技術が使われた道具との相性が悪いの」

「え?」

「前に隣の部屋にきたとき、電気はつけてなかったし、家電製品といえるものは全くなかったでしょう?魔力に干渉してしまうので、魔力消費が激しくて魔法使いに疲労は溜まるわ、家電製品はすぐに壊れるわで、いいことはないんですよ」

「え、でもサンゴさんの声が聞こえるイヤホンとか、部屋にあるスマートスピーカーとかは」

「あれ、ジャンク。誰かに見聞きされても違和感ないようにしてるだけ」

「まあ、シオンは突然変異型の魔法使いなので、そこまで科学製品を避けなくてもいいんですけどね」

「無駄に魔力を消費することもないだろ。だから飯はエリーがなんとかしろ」

 そうだったのか。

「料理、どうするかなあ」

「できないのに人を誘ったのかよ」

「だって、あんなにやつれてたんだったら心配にもなるでしょう!」

 とにもかくにも料理だ。

「スーパーで簡単にできそうなやつ買ってくる……」

 候補はチンジャオロースの素とかだけれど、ついでにレシピ本も見てきてもいいかもしれない。

 着替えて、家を出た時だ。

「あ」

「こんにちは」

 隣の住人も家を出てきたところだった。

 これは、ちょうどいい。

「古城さん」

「あ、はい」

「折り入ってお願いが」

「なんでしょう?」

「料理、作ってくれません?」

「……料理?」

きょとんとされるものの、ここで怯んではおしまいだ。

「今日、不摂生な友人を家に呼んでごはんを食べてもらうことにしたんですけど、自分が料理下手なのを思い出して……」

「いいですよ。つくりに行きましょうか?」

 距離感。

「それは、悪いですよ……」

せいぜいが、テイクアウトを想定していたのに。

「あ、変なこととか、そういうのを持っているわけじゃなくて、どうせなら、できたてを食べてもらいたくて。僕は調理人に徹しますから」

「……夜遅くなりそうですけど、仕事とか、差支えたら申し訳ないですし」

「あ、大丈夫です」

 ……もしかして、学生か?

「エリーさん、一応は大丈夫そうですし、万が一大丈夫でなかったら私がなんとかしますので」

 サンゴのアシストが後押しした。

「お願いします」

片岡は早々に白旗をあげたのだった。

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