第8話 戦うメイド様

 ステッキの台座には、ネックレスは到底収まりきらない。

 だからといって、きらきらとした宝物を引きちぎって無理やり押し込むのも違う気がする。

 封印に必要な道具とはいえ、誰かにとっての大切なものだ。

「そうか……」

 エリーはネックレスをステッキに巻き付ける。

 ぽうっと光がともる。

 宮中にとって思い入れがあり、金銭的にも価値ある品物であることの証。

「シオン、あたりです!これに封印できます」

「っしゃ、サンゴ、最大出力の防御、頼む」

「了解。エリーさん、準備はいいですか?」

「うん!」

 ステッキを迷わずに怪物へと向ける。

 大きく振り上げられた腕は、シオンへ届く前に弾かれた。

「……克服せよ。五つの束縛!」

 シオンが張り上げた封印の呪文に、仕上げの言葉を乗せる。

「ウールドヴァバーギーヤ・サンヨージョナ!!」

 もやがネックレスに吸収されていく。

 カヘンは引きはがされ、怪物はゆっくり人間へと戻っていった。

 乱れた呼吸を整えていると、視線が絡み合う。

「……すみれちゃん、最後に、教えてくれよ」

 宮中はうつろながらも、まだ意識が残っていた。

 促すように、目をそらさずにいる。

「俺が救いを求めたのは、間違いだったのか?」

 それは。

「間違いでは、ないです」

「なら、どうして俺は」

 唇を、噛みしめる。

「ただ、救いはいくつもあっていいんです。すみれ以外にも、他にも、あっていいんです」

「わかっては、いたんだけどさ……」

 気だるそうに、瞼が落ちていく。

「どう頑張っても、二次元にしか、頼れない人間ってのは、いるんだよ……」

 もやの吸収まであと少し。

「一人は、いやだな……」

 宮中は意識を失った。

 黒くなった首飾りを、ふらふらのシオンが回収した。

「……二人とも、身体が辛いでしょうが、急いで撤収を」

 またもやサイレンが遠くで鳴っている。

 今回も建物は半壊だ。

 近隣住民の通報だろう。

「わかった。ナビを頼む」

 シオンは煙のように姿を消す。

「エリー。わりいけど、このストラップを持って逃げてくれ。俺は少し、休む――」

「……シオン?」 

 ころりと動いた黒猫のストラップは、それっきり動かなくなった。


 エリーは走る。

 自分たちのしていることはほじくりかえさなくてもいいトラウマをつついて、嫌な思いをさせているだけではないのか。

 答えてくれる人はいない。

 世間で自分たちがどういうふうに言われているかは知っている。

 アニメみたいに、もろ手をあげて歓迎される魔法少女なんかじゃない。

 暴力的な手段を持って押し入り強盗をする犯罪者だ。

 雨が降ってきた。

 イヤリングを取る。

 瞬時にメイド服からTシャツにジーンズ姿の片岡枝里子になった。

 ばたんと自分の部屋へとかけこみ、玄関でずるずると座り込む。

 ぽたぽたと毛先から落ちるしずく。

 暗い部屋。

 窓の外でやまない雨。

 誰にも言えない秘密。

 こんなときに、一人は、嫌だった。

「意味は……あるの?」

 部屋は静まり返っていた。

 答えが返ってくるはずもない。

「それでもちゃんと誰かを救っている」

 かすかな声が聞こえた。

 相棒のかすれ声に、枝里子は泣いた。



 暗がりの部屋で、うずくまる人物がいた。

「本当に、今回の魔法少女は封印の仕方が野蛮ね」

 黒い服の人間は、答えない。

「あなたもそう思わない?」

「……あんな思いは、したくない」

「大丈夫よ。私の言うとおりに動いてくれれば、あなたは苦しまなくて済むから」

 雨が降っていた。

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