第6話 メイド、潜入する
「絶対に来てくれると思ったんだ……すみれちゃんは困っている人を見るとほっとけないものね」
ダメだ、完全にメイド戦士すみれ視されている。
これはすみれになりきるしかないのだろうか。
イヤリングからかすかなノイズが聞こえる。
『エリーさん、聞こえますか?』
「は、はい……」
『そのまま聞いてください。すみれになり切ってターゲット、宮中の注意を引いてください。その間に封印アイテムを選定し、回収する作戦に変更します』
「やっぱり……!嬉しい」
サンゴへの返事は、宮中との会話とうまい具合に噛みあっている。
あちらはあちらで勝手に納得しているし、エリーはエリーでアニメキャラになり切らないといけない。
思い出せ。アニメに疎くても、同業として、ヒット作品くらいは目を通した。
「……えへ」
こうなりゃやけくそだ。
「心配になって……来ちゃった☆」
ああ、もう、きつい。
なにもかもがきつい。
頼むからモニターしないでくれよ、うん。
というかキャラクター設定者よ、なんでこういう話し方に設定したんだよ。もっと大正ロマン風の衣装にするとかしずしずとした話し方にするとかいろいろあっただろ、メイドっていろいろあるだろ。
「ずっと一人だったからさ……もう寂しくて、これからもこのままかあって思ってたらむなしくて。ずっとすみれちゃんを見ることが生きがいだったんだ。だから生きてこれたんだ。願いは叶うんだね。これからはずっと一緒にいようよ」
近い近い距離が近い物理的に近いよ。
お願いだからそれ以上は接近しないでほしい。
でないとぶん殴ってしまいそうだ。
『エリーさんごめんなさい、私としてもそこに防御魔法を展開したいのですが、今やると不自然きわまりないのでこらえてください!』
サンゴに応えるように、ひきつった笑みを浮かべる。
というかシオンはなにをしてるんだ。
ベランダを盗み見ると、そこはもぬけの殻だった。
……あいつ。
逃げやがった!!!!
いや、うん。まずは、離れて?
「と、とりあえず、一緒にいるために、まずはお掃除したいな~。掃除用具とか持ってない?」
「……すみれちゃんなら、そういうのぽんって出せるんじゃないの?」
やばいやばいここで正体がばれたくない。
心の声よ、伝われ!早く私の手に掃除道具を!
魔法少女エリーは、自身の変身と、カヘンを封印するための魔法しか使えないのだ!
『すみません、そういうのは私専門外で』
サンゴ、おまえもか!
テレパシーが通じたのは嬉しいけれど。
『なんとか誤魔化してください』
この、魔法は万能ではありませんよ感に次々と期待を裏切られる。
やはり頼れるのは自分自身。の、話術。
「あ~、やっぱりあるものを使って掃除するほうがはかどるし☆」
「……そっか、どこかにあったから探すよ」
宮中は背を向けて、作り付けのクローゼットを漁り始めた。
ああ、疲れる。
どうしろっていうんだ。
こんなんだったら怪物が現れてから現場へ急行したほうが疲労度が少なくていいのに。
「おい、生きてるか?」
聞き慣れた声が小さく耳に入る。人の気も知らないで。
「シオン?今どこ?」
「ここだここ」
見ると、小さな猫のストラップがもぞもぞと動いている。
ぎょっとした。
少なくとも動くような作りにはなっていない。
「これに憑依した。ちょっとどっかに隠してくれ」
エリーは掃除道具を探すふりをして、するりとストラップをポケットへ入れる。
「まだ封印できないの?」
「封印に必要な金目のものを探すのにもうちょいと時間がかかりそうだ。あと、あいつの心の闇が、今一つはっきりしない。恐らく孤独感だろうけど……カヘンと一緒に肥大化した心の闇を回収したいんだ。直接の原因じゃないものを間違って持っていっちまうと、その人間の心に影響を及ぼすし、また怪物になる可能性がある。だから、もうちょっと話を聞いてみてくれ」
「すみれちゃーん、掃除道具、あったよ!」
「じゃ、俺はもうちょっと金目のものを探す」
ストラップはぽとりと物の中に落ち、それっきり動かなくなった。
エリーは口角をあげ、すみれとして振り返った。
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