活躍(暗躍)する魔法少女、あるいは盗人

第5話 魔法少女、リサーチ


「それにしても、こういう仕様なんだな」

「あまりないパターンです。普通は最初に出た衣装で固定され、使用可能な魔力量に合わせてマイナーチェンジしていくのが一般的なんですが……」

「で、私はどうしてこういう服を着てるか誰か説明して?」

 片岡枝里子、もとい魔法少女エリーは、メイド服姿で顕現していた。

 薄紫色の膝上ドレスに白のフリルエプロン、黒のニーハイ。濃い紫のリボンで髪が結ばれている。

 メガネっ子属性をつけられたのか、伊達メガネまで一緒に現れている始末。

 どこからどうみても、ステレオタイプなメイド服。

「いやあ、ここまでメイドって感じでくるとは思わなかったよね」

「笑ってないで、戻してよっ!シオンが遊んでるんでしょ!」

 ぽかぽかと叩くものの、一向に意に介した様子はない。

「だけど、魔法少女の服装って、深層心理で自分が着たい服が衣装になるから、俺の一存じゃあ決まらないんだよなあ」

 たまらず襟元をがばりと締め上げる。

「三十歳の、私が、メイド服を、着たがってたとでも?」

「言えなくはないんじゃない?第一今着てるし」

「そのよく回る口をどうにかしてやろうかしら」

 面白いくらいに伸びるシオンの頬を思い切り引っ張っていると、ため息が聞こえる。

「そのへんでやめてあげてください、エリーさん。シオンも、悪ふざけはよして」

「サンゴさん、私がこういう服着てるの、なにか理由があるんですよね?そうですよね!?」

「もちろん、あります」

 ぱっとシオンから手が離される。

「第一に、魔法少女は十代を想定されているので、コスチュームの丈やデザインが、どうしても十代基準によってしまうんですよね」

「……私基準に直してもらえません?」

そんな理由で羞恥心を爆上げされたくはない。

「善処しますが、いかんせん予算が」

予算不足はどこの界隈でも同じか。

「いや、仮にも無給で活動してるんだから被服費くらい調達してきてよ!」

「調節できそうな服なら、変身したあと自前で微調整してください」

そして安定のドライ。

ただ、第一と言っていたのが気にかかる。

「……ほかにも理由が?」

「ええ。エリーさんは特殊なケースなんですが、早い話、攻略対象によって変わる戦闘装束って言ったらいいんでしょうか」

「……はい?」

 スーツが戦闘服っていうのはよく聞く。

 けれどメイド服が、戦闘服だって?

「カヘンが、人間の満ち足りない心に反応してしまうことは説明しましたね?」

「はい。人間の満ち足りない心に作用して異形化してしまう禁断の魔法薬『カヘン』が、魔法界から漏れたので、悪影響を及ぼさないために、シオンが特命で動いていると」

「そう。今までは怪物になってしまった人間を救出していましたが、今回はなりそうな人のところに出向いて、カヘンのみ回収してもらいます」

「……メイドになって潜入しろと?」

「いえ、ただ単にターゲットがメイド服が好きみたいですね」

 真顔になる。

 横でシオンがひーひー笑っている。

「腹が、痛え……ほんと、助け――おわー!?」

エリーによる物理的な攻撃。

 茶々はいらない。話を戻そう。

「あの、私コスプレの趣味はないんですが」

「大丈夫です。よく似合ってます」

「そりゃ魔力補正でいじれるところは全部いじ……うごっ」

「シオンはもう黙っててください」

 遠隔からの鉄槌とエリーによる制裁のダブルパンチで、シオンは悶絶した。


「ターゲットは、宮中昭雄、三十三歳。フリーターで、アニメグッズに多額の金をつぎ込んでいます」

「業界人からしたら、お客様の鏡だね……」

 一人暮らしのアパートに入る。

 サンゴの防御魔法を幾重にもかけ、エリーとシオンはベランダへとまわった。

 窓からのぞいてみると、確かに多くのアニメグッズがところ狭しと並んでいる。

 ポスター、フィギア、抱き枕。

 そして宮中は、部屋に入るやいなや、すぐにテレビをつけ、ブルーレイを再生し始めた。

「何年か前に流行ったメイドが主人公のアニメだ……」

「メイド好きってのは本当だったんだな」

 そのまま観察していると、テレビの前に座り込み、画面に食い入るように見入っていた。

「でも、宝石とかは持ってなさそう……」

「それはまずいな……なにか金目のものっぽいもの、見当たらないか?」

「キャラクターグッズとか、円盤……アニメのブルーレイディスクとかだとそれなりに高額だけど」

「シオンの魔法との親和性が問題ですね。試したことがないので、やってみないとなんとも」

 そのとき、ふっと中の人影がこちらを見た。

 目が見開かれる。

「サンゴ、今の俺たち、どうなってる?」

「シオンの姿は見えていません。エリーさんは……」

「魔法が解けるのが思ったより早くて、相手から丸見えなんだな?」

 ゆっくりと宮中が近づいてくる。

 どうしよう。

 通報待ったなし。

 こんな格好で捕まるなんて、絶対に嫌だ!

「……すみれちゃん?」

 か細い声は、エリーに向けられているようだった。

『メイド戦士すみれ!ただいま参上~☆』

 開けられた窓から、アニメ声が漏れてくる。

 画面には、今のエリーとそっくりなキャラクターが大写しになっていた。

「本当にいたんだ……!さあ、入って入って!」

 腕を引っ張られ、はからずとも中へと潜入する形となる。

 シオンも続こうとするが、鼻先でぴしゃりと閉められ、追突した。



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