12
亜美の大きな目は、棗とは違って意思の強さを感じさせる強い光を放っている。カールしたまつ毛が可愛い。薄い眉に、白いほっぺた。それに小さな耳。髪がポニーテールで、それが昨日拾った猫の尻尾に似ていると棗は思った。
「亜美、ちょっと来て」と声が聞こえる。
「うん。今行く」と言って亜美が動いた。棗は亜美の尻尾の動きを追いかける。
移動し始めた亜美が急に立ち止まる。そして棗のほうを振り返った。
「どうしたの?」と棗は聞く。すると亜美は「ねえ? その子の名前ってもう考えてあるの?」と棗に聞いた。
その亜美の言葉で、棗は急に、……そういえばそんなこと全然考えていなかったな、と思って、『拾った猫に名前をつける』と言う、そんな大切なこと(あの自由気ままな猫にとっては大切なことではないのかもしれないけど)に、このときようやく気がついた。
でも、棗はそのことはなるべく表に出さないようにしたままで、棗は亜美に「まだだよ」と答えた。
お昼休みになってご飯を食べ終えた棗は話し声の聞こえる廊下を一人で歩いていた。考えているのは猫の名前のこと。亜美に言われるまで全然考えもしてないかったこと。そうだ……、名前だ。僕はあの猫を拾ったんだから、あいつに名前をつけてやらなければならないんだ。
棗は考える。それはきっと猫を拾った責任の一端だと思った。
棗は、……自分の(棗と言う)名前が嫌いだった。だからってわけじゃないけど、名前なんで別にどうでもいいことだと思っている。(だから亜美に指摘されるまで、そのことを思いつかなかったのだ)
……だけど、それが他人の、もしくは猫のことになると話が変わっていくる。他人にとって、そして猫にとっても、名前はとても大切なものなんだ、とそれくらいはちゃんと(自分の名前が嫌いな)棗にも理解することができた。名前があるってことは、それを考えた人がいるってことだからだ。
でも、そのことを考えると、なんだかとても嫌な言葉ばかりが棗の脳裏に浮かんできた。(記憶とは、こうして鎖のようにつながり、連鎖しているものなのだ)
……やっぱり僕は名前が嫌いだ。だけど、拾った猫の名前は考えなくちゃいけない。なぜなら、それは猫を拾うことを選択した僕自身の責任だからだ。
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