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 はじめは確かにそうだった。

 でも、いつの間にかそれは全然違う思考に移り変わって、そのあと僕はたぶん変なことを考えていたはずだ。その『変なこと』はもうどこかに行ってしまったのだけど(棗はそのときの思考をもう忘れてしまっていた)、どこかに行ってしまったということは、大したことではない、ということなんだろうと思う。ただそれは植物の根っこのように僕の頭の中に張り付いていて、時折、いろんな風に形を変えてひょっこりと僕の思考の中に芽を出して、僕の目に新しい、なにか新鮮な風景のようにして、映り込んだりはするようだった。

 きっとそれは、今の僕にうまく理解できないだけで、将来の僕にとって、とても大切ななにかなのだろう。

 それは今の僕にもわかっている。だから僕は焦らない。今はきっと、あの昨日拾ってきた猫のように気ままに振る舞っていればいいのだ。

 そんなことを棗は思った。


「こら。一ノ瀬くん。また変なこと考えているでしょ?」

 声につられて棗は亜美を見る。すると亜美は笑っていた。それは君のすべてを私はいつでもお見通しなんだよ、とでも言いたげなほんわかとした(でも、自信のある)笑顔だった。

 棗と今、棗の目の前で笑っている同い年の同級生の中学二年生の女の子、木下亜美との付き合いは長い。幼稚園(ひまわり幼稚園と言う名前の幼稚園だ)のころからずっと一緒で、いわゆる幼馴染という関係になるのだと思う。

 棗は同年代の女の子と、こんな風になんの抵抗もなく会話をできるような明るい性格ではないのだけど、亜美の場合はそれができる。それは亜美が棗のことを同年代の男の子としてではなくて、ずっと昔から知っている幼馴染の男の子として接してくれるからだろう。だから棗も亜美を同年代の女の子としてではなくて幼馴染の女の子として見ることができるようになる。亜美がそんな僕達の関係を本当のところは、どう思っているかはわからないけど、棗はそんな今の関係を結構気に入っていた。 

 だから棗のほうから、この関係を壊そうとは思わない。この関係がどこまで継続できるのかはわからないけど、自分から壊そうとはしない。自然に、……もしくは亜美のほうから、ねえ? 一ノ瀬くん。そろそろ、私たちの関係を壊さない? と言われるまで、棗はそのときが来るのを、じっとただ待っているつもりだった。


 棗はそんなことを考えながら、楽しそうに笑って猫の話をしている亜美を見ている。

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