「ごちそうさま」と柚が言って席を立った。いつもより少し早い時間だ。なにか予定があるのかもしれない。

「もう出かけるの?」棗がそう聞くと柚は「うん」と答えた。

「なら、僕も一緒に行くよ」と棗は言う。柚は「いいよ」と言って笑った。

 二人は二人一緒に玄関で靴を履き、ドアを開けて外に出る(猫はお留守番だ)。鍵をかけて振り返ると、柚は道路脇にいて、きょろきょろと辺りを見渡していた。友達を探しているのかもしれない。

「待ち合わせ?」棗が聞く。

 すると柚は「ううん。なんでもない」と答えた。

「出発してもいいの?」棗が聞く。「うん」と柚はうなずいた。「そう」棗はそう言って柚と一緒に並んで歩道の上を歩き始めた。


 途中で、柚の友達と合流し(やっぱり、友達を待っていたのかもしれない。柚は遠慮をして本当のことをあんまり人に言わない性格だった)棗は柚たちと別れて一人で自分の学校に向かった。

 学校はいつも通り退屈だった。だから棗は机の上でずっと、家に一匹だけで残してきた猫のことばかりを考えていた。

 棗は窓の外に目を向ける。

 そこにはとても鮮明な青色をした夏の空が広がっていた。所々に白くて大きな雲が浮かんでいる。それはとてもゆっくりだけど、確かに空の中で動いていて、徐々に形を変えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る