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「……だめなら元の場所に明日戻してくる。だけど外は雨だし、今日くらいはあいつをここで休ませてあげたいんだ」と棗は言った。
母は考えている。それはそうだろう。子供の棗と違って、大人の母は考えなければいけないことがたくさんあるんだ。
しばらくして、母は棗の目をじっと見つめて、「わかった。いいわよ」と言った。「本当!?」と嬉しそうな声で柚が言う。「ええ、本当」振り返って母が言う。このとき、母が笑っていたことが柚の表情に反射して棗にも理解できた。柚が笑顔のまま棗を見る。棗は柚に笑顔を返した。
三人と一匹で晩ごはんを食べているときに猫のことについて話しあった。基本は拾ってきた棗が責任を持って面倒を見る、という内容だったが、それとなく猫の世話の仕方なども母は棗に教えてくれた。その説明がやけに詳細だったので、母は昔、猫を飼っていたことがあるのかもしれないな、と棗は思った。
「もしこの子が飼い猫だったとして、飼い主さんを見つけたら、ちゃんとその人にこの子を返すこと。いいわね?」棗が猫と一緒に自分の部屋に戻ろうとしたときに、母がそう言った。どうやら柚が自分の部屋に戻るまで、この忠告を棗にすることを母は我慢していたようだ。猫に詳しくない棗でもそう思ったのだから、猫に詳しい母は、棗以上にそう思っていたのだろう。棗は短く「わかった」と答えてキッチンのドアを閉めた。
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