2019.6.27-2
浮浪者の悪餓鬼共が集まっていた。私はその中の一人だった。
色々な悪戯をして街に居るのも飽きた、旅に出ようと言う話になった。汽車で揺られて、温泉街に辿り着いた。
そこに立っていた爺様に、温泉の場所を聞いた。
「此処から3駅行った所に温泉がある。少し値段が高い。うちでも入れるけれど、エンターテインメント的なものは無い」
と、温泉街のパンフレットを差し出して答えてくれた。パンフレットを見ると、水着着用の温泉や、滝が出る温泉もあるらしい。
悪餓鬼連中と話しながら、眠くなってきて何処かの温泉で良いと言う話になった。
赤毛の子が「仕事を見つけよう」と言い出した。「明日、役所に行って俺達の書類を出して、働くんだ」と。
私と赤毛の働き口は学校だった。私は20代後半程の男だったので、教師として働く事になった。赤毛の子は雑用だったが働ける事になった。それぞれの悪餓鬼も近辺の働き口を見付けたらしい。
その日は宿で眠り、風林火山で有名な武田信玄の夢を見た。温泉好きだからだろう。
起きたら、岩盤を掘った地下にある役所に書類を書きに行った。わいわいと皆で適当に並んだ書類に書き込んでいた。悪餓鬼共の中でも聡明な少女が数枚の紙を提出していた。なんの仕事につくのだろう。
家は皆でトタン屋根のオンボロアパートを借りる事にして、私は赤毛と学校に行く事にした。
学校は奇妙だった。
プールのような温泉がある。巨大なぐつぐつと煮えた温泉とプールが3つあった。地下にもある。
七三分けで眼鏡を掛けた神経質そうなひょろ長い男が、「新人同士仲良くしましょう」と笑いかけてくれた。余り良い気分ではなかった。
悪餓鬼の皆も学校で職を見付けたのか、その夜は学校の地下の温泉でお祝いとなった。暑くてぼんやりしていた私はしこたま酒を飲んで寝た。
起きたら、赤毛が寝ていた。赤毛は満足そうにきらきらとした宝石のようなものを髪に付けていた。聡明な少女が「あれは溶岩の成分に含まれる宝石。又、溶岩を飲んできたみたい」と私に囁いて来た。
赤毛は人間では無かったのだ。溶岩を食べる怪物だったのだ。
起きて学校に行くと、七三分けの眼鏡が、「お早う御座います。ところで……」と声を掛けて来た。
「赤毛の子、地下の溶岩を700リットル以上飲みましたか? 規約違反です。私はとても悲しい。あの子を解雇しないといけない」
「何を言っているのですか。あの子の体格をご覧なさい。とてもそんな量を飲める姿をしていませんよ」
と、反論しつつ、内心私は、「しまったな。赤毛は飲んだかもしれない」と思っていた。髪についた宝石は、溶岩を飲んだ証だからだ。
「では、口約束にならないように誓約書を書いて下さい」
そう言う七三分けに、私はシャーペンでメモに走り書きをして印鑑を押した。それを見せると、七三分けは満足して「では」と去って行った。
私は七三分け眼鏡が見えなくなったら、誓約書のメモを破って排水口に捨てた。
多分、赤毛は存分に溶岩を飲んだだろう。あれは竜なのだから。
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