197鱗目:デート?!龍娘!
「えーっと確か待ち合わせの公園はこの辺りだったはずー……っといたいた。おーい!」
ある日の午前九時頃、黒と白の長さ違いのレイヤードという作りのフレアスカートに、白のもふもふとしたちょっと袖の余ているTシャツ姿で外出していた。
そしてそんな僕は少しだけ人通りの少ないレンガ通りから離れた公園にて、待ち合わせ相手を見つけ大きく手を振る。
「お待たせ!ごめんね待たせちゃって」
「時間通りだし大丈夫だよ天霧さん。それに、女の子は準備に時間がかかるものだかんね」
「あはははは……さて、それじゃあ今日はよろしくね!僕、今日の為にお小遣い貯めてきたんだ〜♪」
楽しげにふりふりぱたぱたと尻尾を振り翼を動かし、僕は待ち合わせ相手であるどこにでもいる一般人という表現がぴったりな京也君へと今から向かう場所を尋ねる。
どうして京也君とお出かけする事になったのか、それは遡る事1週間前─────
ーーーーーーーーーー
「んんっ!これ意外と美味しい!ってあれ?京也君?」
「げっ?!天霧さん!?」
学校帰り、キッチンカーのクレープ屋にてナタデココカラメルソースアイスクレープに舌鼓を打っていた僕は、近くの建物の影に隠れていた京也君を発見する。
「そんな所で何してるの?」
「あ、いやっ、これはぁー……」
なんか挙動不審だけどどうしたんだろ?それにちらちら僕の手元見てくるしー……あっ。
「もしかして、クレープ食べたいの?」
「そ、そそっ、そんな事ないしっ!」
「ふーん……あむ」
「あっ」
「ん〜♪美味し〜♪」
「あぁぁ……」
「はぁ……仕方ないなぁ」
そう言うと僕はパクパクとクレープを食べきり、もう一度クレープ屋に行って今度はクレープをふたつ買って戻ってくる。
「はい、京也君もどーぞ」
「え?!いいの!?」
「だってあんないいなぁって目で見られちゃあねぇ。食べたかったんでしょ?」
「ま、まぁそうだけど……」
「ほらやっぱり。そんなに食べたかったなら二の足踏んでないで買わないと、こんなに美味しいんだから買える余裕があるなら買っておかなきゃ」
「うぅっ……仰る通りです…………でもその……」
「?」
「天霧さんは女の子だから分からないかもだけど、男一人があぁいうお店で甘い物を頼むのはなかなかに恥ずかしい物があって……」
「……?あっ」
い、いかん!僕とした事が、男の気持ちを一瞬とはいえ忘れてた!
「そ、そうだよね!男一人だと結構恥ずかしいよね!わかる、わかるよその気持ち!」
焦りのあまりクレープを握り潰してしまったにも関わらず、物凄く自然に女の子の目線だった事に気付いた僕は翼と尻尾を暴れさせ、目をぐるぐるさせつつ同意する。
「ちょっ、天霧さん尻尾と翼が!というか、天霧さんは女の子なのに男の気持ちがわかるの?」
ん?それって一体どういう事なの……はっ!
「え、えっとね!僕小さい頃から男の子達の中で男の子みたいに育ってきたから、だからほら!男の子の気持ちもわかるって言うか、ね?!」
「なるほど、道理で天霧さんって女子なのに妙に接しやすいわけだ」
「あ、あはははは……」
あ、危なかった……僕が元は男だったってバレるとこだった……
意図せずとはいえ僕が男だった事がバレるとこだった僕は、なんとか誤魔化す事に成功してホッと一息着く。
「と、所で天霧さん。この事はそのー……学校の皆には秘密に……」
「京也君が甘い物が好きって事?大丈夫大丈夫、絶対にばらさないから」
「ありがとう天霧さん……!所でー……そのー……この出会いも運命と言いますかー……付き合って貰えませんか?!」
「うえぇぇ?!」
つ、つつつ!付き合ってぇぇぇえええ?!そっ、そそっ、それってまさかー─────
「来週の限定スイーツの食べ放題に!」
ーーーーーーーーーー
と、言う事で今に至るのだった。
「いやー、僕も相当なお菓子好きだと自負してたけど、でもまさか京也君が僕以上の甘い物好きだとは」
「あはははは……でも今までは調べるだけでさ、お持ち帰りが出来ない物は母さんに頼んでも食べれなくてね、付き合ってくれる天霧さんにはほんと感謝が耐えないよ」
「いきなり付き合ってーって言われた時は確かに驚いたけどね。でもそういう事ならドンと来い、うえるかむだよー!」
目的のお店へと向かいながら、ほんの少しだけ僕より身長の高い京也君の方を向いてどんと胸を叩きつつ、楽しみを我慢しきれず尻尾をふりふりと揺らしていた。
「にしても、天霧さんってほんと驚くくらい親しみ安いよね。その、こう言っちゃ失礼だけど人じゃないのにさ」
「あははっ。僕もこうなる前はただの人だったからね」
「普通の人ならもしそんな事になったら「私は貴様ら人間とは違うのだ」とか「選ばれた存在なんたー」とか、そんな事考えちゃって有頂天になりそうなもんだけどね」
「そんなもんなのかなぁ?」
「そんなもんたよ。俺だったら間違いなく厨二病再発しちゃうね」
「ちゅうにびょう?」
「え?もしかして天霧さん厨二病って知らない……?」
「うん知らなーい。どういう意味なの?」
「あ、いやー……大した事じゃないから気にしなくていいよ!うん!」
「そうなの?まぁ、今度隆次にでも聞いてみるかー」
「……隆次、ごめん」
「っと、着いたよ京也君!」
そんなこんなで歩きながら雑談をしている内に目的の店へと辿り着いた僕は、運良くまだそんなに並んでない行列を見て直ぐに食べられそうだと嬉しそうな声でそう言う。
そして待つこと数十分、ちょっと周りのお客さんに騒がれながらもようやく僕達の番が回ってくる。
「いらっしゃいませ!お2人で宜しかったですかー?」
「はい」
「では席の方へとご案内させて頂きます。ご注文がお決まりになりましたらベルでお呼びくださいー」
少しだけぽわぽわーっとした店員さんに案内され、お店の奥の少しだけ広い席へと案内された僕達はメニューを開き、そこに書いてある美味しそうなスイーツ達を眺める。
「どれも美味しそうだねぇ……!ねねっ、コレ見てよ!ギガンティックマキシマムジャイアントベリーラージサイズ天を貫く極大怒髪天盛りスペシャル盛りパフェだって!」
「お、おぉ……」
「わっ!百層ミルクレープにパンケーキタワー、虹色ゼリーにバケツプリンまであるよ!」
「凄いなこの店……でも天霧さん、今回の目的はー?」
「これ!限定スイーツ食べ放題っ!ん〜♪楽しみっ!」
「ははっ。んじゃ、店員さんに食べ放題二人分頼むね」
「はーい♪」
「お待たせ致しましたー。ご注文お伺いしますー」
「えっとこの限定スイーツ食べ放題を二つ、それとドリンクバーを─────」
「京也君、スイーツを食べるに当たってジュースは無粋だよ」
「お、おう……えっと、じゃあ食べ放題二つだけで」
「はい、かしこまりましたー。所でお客様ー、当店ではカップルで御来店頂くと割引が適用されるのですが、お2人は恋人同士でしょうかー?」
注文を終え、完璧に油断していた僕は、店員さんからの突然の質問に飲もうとしていた水を思いっきり噴き出しそうになりながらもなんとか堪える。
「えっ、えっとそのっ!ぼ、僕達はー……」
か、カップルってその、こ、恋人って事だよね?!
僕達はそういう関係じゃないけど、でも安くなるならば……いやいや!僕は男だぞ!安くなるからってそんな……でも安くなるんなら一時的だけでも…………
「あ、カップルではないです」
「へ?」
「かしこまりましたー」
節約心と男の心の間で揺れていた僕は、京也君にあっさりとそう言われ間抜けな声を漏らすのだった。
その後、少しだけもやもやしつつも次々と届くスイーツを頬張り舌鼓を打ち、帰る頃にはぽっこりお腹で大満足していた。
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