196鱗目:部活動勧誘!龍娘!

「んみゃあぁ……」


「ははっ。案の定、予想通りって感じの毎日過ごしてんな」


「くそぅ……隆次が言ってた考えてる通りにならないってそういう事かぁ……」


 新学期が始まり数週間後。

 僕は疲れきって机に突っ伏し、翼と尻尾をだらんと垂らしてそんな事をボヤいていた。なぜなら……


 ーーーーーーーー


「あ!本物だ!」「すげぇマジだ!」

「きゃー!」「かーわーいーいー!」


「うにゃっ?!にゃに!?」


 入学式の翌日、僕は学校案内中の1年生達に捕まり、もみくちゃにされた。


 ーーーーーーーー


 さらに数日後。


「あの天霧さん!」

「天霧さんこっちむいてー!」

「天霧さん!」「天霧さん!」「天霧さん!」


 どこに行っても天霧さん天霧さんという状態に苛まれ。


 ーーーーーーーー


 そんな地獄のような日々を過ごして今に至るというわけである。

 そして案の定初めて同じクラスメイトとなる人からも同じ目に合わされていた。


 そんなんだからあの4人もなかなか助けようとしても助けられずに居るんだよねぇ……

 まぁでも、隣のこの人がまともなおかげで本当に助かるよ。


 そう思いながら顔だけその隣の席の人、南京也君の方に向ける。

 そんな京也君はどこにでもいる平凡な、僕がこうなる前の頃のような人で、僕も何となく心が許せるのだ。

 ちなみに実は去年から同じクラスだったりする。


「さてさて、そんな状態ですが本日は部活動勧誘がありますぜ天霧さん」


「部活動勧誘?」


 ナニソレ。


「あれ、忘れた?ってそういや天霧さん夏休み直前くらいに転校してきたんだったね。そりゃ知らないか」


「うん。で、どういうのなの?」


「部活動勧誘ってのは新入生案内の部活動紹介とは違って、部活動が色んなやり方で勧誘をするんだよ。ほら」


 そう言うと京也君は僕に外のグラウンドを見るように促す。

 するとそこには面白い格好で走る陸上部や、新入生と遊ぶ野球部なんかが居た。


「他にも文化部系は部室で色々催してたりして面白いぞ」


「へぇ」


 なるほど。だから最近とらちゃんとかさーちゃんが忙しそうにしてたのか。


「せっかくだし仲良しさんの所にでも遊びに行ってみたらどうだい?」


「ん、そうしてみるー」


 京也君に促され、僕はそう返事をすると教室を出たのだった。


 ーーーーーーーー


 さてさて、せっかくだし遊びに行ってみるかぁと思って出たは良いものの、誰がどこだったっけ。

 えっと確かさーちゃんは手芸でとらちゃんが茶道だったかな?


「とりあえず近場の手芸部から行こう」


 前から僕目当てで雪崩込むように押し寄せてくる人の波をかき分けつつ、僕は手芸部の部室へと辿り着く。


「ようこそー……ってあら、鈴じゃない。どうしたの?」


「なんか催しやってるって聞いてやって来たんだけど……死ぬかと思った」


「見たいね……あーあー、尻尾も踏まれちゃって。とりあえず、休憩がてら鈴も手芸部の催し物やって行く?」


「ん、やるー」


 僕がそう言うと鈴ちゃんだ天霧さんだとキャイキャイと騒ぐ女子達に案内され、さーちゃんの隣の席に座らされる。

 そしてさーちゃんに手取り足取りハンカチの刺繍を教えてもらう。


「すごーい!鈴香さんって刺繍得意なんだ!」


「えへへ、まぁ縫い物は多かったからね。でもさーちゃん、準備とか大変だったんじゃない?」


 こんな沢山の道具揃えたりとか、刺繍のマーク考えたりとか……


「呼んでくれれば手伝ったのに……」


「その気持ちは嬉しいわ鈴。でも鈴が居るとそれだけで人が集まっちゃうから、部活動間で鈴にだけは何があっても助けて貰っちゃいけないって決めてあるのよ」


「えっ」


「他にも無理矢理引き込もうとしないとか、鈴に関しての部活の取り決めって結構あるのよ」


「そ、そうだったのか……」


 そんな取り決めがあったとはと僕が驚いて居ると、なんだか部室の外が騒がしくなってきた事に気がついた。


「っと外が混んできたわね」


「うぇぇぇ……」


「ふふっ。すーず」


「んえ?」


「アタシ達はお客さんの相手をしないといけないから、鈴はそっちの窓から出ちゃいなさい」


「で、でも……」


「ここに来るって事はここのお客さんなんだから「ただのお客さん」の鈴は先に帰っちゃっても問題無いのよ」


「うんうん!」「だからここは任せて!」「良かったらまた遊びに来てね!」「楽しかったよ!」「またおいでー!」


「それに、もしお客さんじゃないなら騒ぎを起こして部活の邪魔をした説教は必要よね?」


 さーちゃん以外の手芸部の部員さんにもそう言われ、僕がわたわたしてると悪そうな顔でさーちゃんがそう言う。

 それを聞いた僕は、また遊びに来ると約束をして窓から飛び立ってその場を後にしたのだった。

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