194鱗目:何事も楽しんで!龍娘!
「………………うにゅ……んんっ……!ふあぁ……よく寝たぁ…………」
なんか1年くらい寝てたような、そんな気がするくらいよく寝たなぁ。
もぞりと布団から上半身を起き上がらせ、水色の鱗や甲殻に覆われた大きな翼と長い尻尾を伸ばした僕は、にゃんこうをかき分けベッドから降り、部屋を出て台所に向かう。
「ちー姉おはよぉ」
「あら、鈴ちゃんおはよう。なんだか久々に会った気がするね」
「だねぇ」
毎日顔合わせてるのに、なんだか変な話だ。
「それもこれも、昨日鈴ちゃんが夜更かししたからでしょー?起きてきたのもお昼前だし、明日からは早く寝るんだよ?」
「はーい。所でちー姉、それってなに?」
「これ?これはねぇ雛人形だよー」
「ひなにんぎょー?」
「そ、雛人形。今日はひな祭りだからね!せっかくだし飾ろうと思って!」
そう言うちー姉の前にあるテレビ前のローテーブルにある3つの段々には、綺麗な雛人形が並べられていた。
「鈴ちゃんの事だし、ひな祭りがどういう日か知らないんじゃない?」
「さ、さすがに知ってるよ!えと、えと、お人形飾って、それでー……」
「ふふっ、そうね。お人形飾って、女の子の健やかな成長を祈る、っていう女の子の為のイベントだもんね」
「う、うん!知ってたもん!」
ひな祭りが女の子の為のイベントだってー……女の子の為の?
「えっ……と、ちー姉?」
「ん?なぁに鈴ちゃん」
「その雛人形ってさ、さなちゃんの分……だよね?」
「んもー鈴ちゃんったら、ここは鈴ちゃんのお家なんだから飾られる雛人形も鈴ちゃんのに決まってるでしょ?」
「だーよねー」
分かってた!分かっては居たけど!
「元男としては複雑なんだよなぁ……!」
「たくもー。もうそろそろ女の子になって1年経つんだから、男の子だったって気持ちとか感性は捨てられなくても、女の子を楽しむくらいはやってもいいんじゃない?」
女の子を楽しむ……ねぇ。
ちー姉に面と向かってそう言われ、僕は少し顔を逸らしながらちー姉のその言葉を頭の中で思い起こすのだった。
ーーーーーーーーーー
「ただいまー。菱餅とひなあられ、買ってきたわよー」
「さなかちゃんありがとー!やっぱりひな祭りにはこれがないとねー」
「まぁひな祭りと言えばっていう食べ物ですからね。ところで鈴は?」
「鈴ちゃん?鈴ちゃんならさっき起きてきた後部屋に戻っちゃった」
「ったくあの子ったらまだ寒いからって……起こしてきま────」
「ん?さなかちゃんどうした────」
「な、何さ2人共……僕を見るなり黙っちゃって」
そんなぽかーんとした顔でさ。
「えっ、だってっ。鈴ちゃんそれってっ!」
「……意外、鈴って絶対そういう服着ないと思ってた」
「い、いいでしょっ!その、今日は女の子の為のイベントなんだから、僕がこんな格好してみたって……」
モジモジとしながらそう言う僕の格好は、ふりふりのいっぱい着いた、ピンクの可愛い奴であり────初めてちー姉が僕に勧めてくれた服だった。
「うぅぅー……似合ってないならもう着替えるから!」
「ないないっ!そんな事ないからっ!ちょっとお姉ちゃん嬉しすぎて……」
「ちょっ、泣く程?!そこまでじゃ無いでしょちー姉!」
「うぅ〜!だって……だってぇー!」
「分かった!分かったから!着替えないから泣きながらすがりついて来ないでーっ!」
「ったく、ほんと2人は仲良しなんだから」
わんわん泣きながら僕の腰に抱きついているちー姉を引き離そうとする僕を見ながら、さなちゃんは呆れたような顔をしつつも、笑顔を浮かべそう呟いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます