第193鱗目:平和な一日、龍娘

「んん……んぅ……」


『避けなさい!死ぬわよ!』


『あと少し……あと少しだ!』


 見たことも無い水晶に覆われた部屋の中に、装備のせいで顔は見えないが焦った様子の金城さんや、三浦先生がボロボロになって何かと対峙していた。

 そしてその対峙している相手の姿は……


『不味い!またあれをやる気だ!』


 背中に大きな翼を生やし──────


『水晶の影に!三浦!一旦隠れろ!』


 長い尻尾と水晶のような角を生やした──────


『ここで逃げてどうすんだ……!待ってろ!今助けてやるからな──────』


「っ!」


 い、今のって……


「……夢?」


 汗はかけない体になったにもかかわらず、もう朧げにしか思い出せない夢から飛び起きた僕はキョロキョロと自分の部屋を見回してほっと息をついたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「〜〜♪」


「鈴ちゃん」


「んー?」


「鈴ちゃんってさー」


「うんー」


「女の子らしくなったよねー」


 ガチャンッ!


「い、いいいいいきなり何をっ!?」


 そ、そんなっ!そんな事あるわけっ!


 珍しく二人が起きてこず、僕とちー姉だけしか居ないキッチンでいつものように洗い物をしていた僕は、突然ちー姉にそう言われ、思わず鍋を落としてしまう。


「いやー、ココ最近の鈴ちゃん見てたら女の子らしくなったなぁって。お鍋落としたけど大丈夫?」


「あ、それは大丈夫。特に怪我もないし……じゃなくて!そんな訳にゃい!あ、いやないじゃん!」


「いやー。だって、ねぇ?去年の今頃はあんなに嫌がってたのに……今は殆ど毎日スカート履いてるし」


「そ、それは!ズボンだと尻尾の付け根に当たってなんか変な感じするから仕方なくスカート選んでるだけだし!」


 尻尾がない人にはわかんないだろうけど、感覚としてはパンツがくい込んでる感じに近いし、尻尾穴のせいでお尻の付け根が丸見えな感じがして嫌なんだよ!

 それに普段尻尾って下向きだから余計気になるし!


「それに鈴ちゃんのお部屋も可愛いぬいぐるみでいっぱいになってきてるし。……殆どにゃんこうだけど」


「だってにゃんこうかわいいもーん。それに男の人でも可愛いの好きな人とか居るだろうし……」


「そもそもにゃんこう自体ものすっごいマイナー……」


「ん?なんか言ったちー姉?」


「イエナニモー」


「朝から元気ねー。おはようございます千紗さん、鈴」


「さなかちゃんおはよう」


「あ、おはよーさーちゃん。今日は遅かったね?」


「ちょっと昨日夜更かししてて……それで、何を話してたの?」


 あーだこーだとちー姉と言い合っていた所、やっと起きてきたさーちゃんに僕は用意しておいた朝ごはんを出しつつ、さっきまでの話をきかせる。


「なんだ、そういう事だったのね」


「ねー、ちー姉酷いと思わない?僕は全くそんな事ないのに」


「とか言いつつ、ちゃっかりアタシに同意求めてる時点でだいぶ精神的にも女の子になってると思うわよー」


「うぇっ!?」


 そ、そんな事……!いやでも言ったのは事実だし……!あぁうぅぅー!


「それに鈴、この間アタシの部屋に来て女性向けファッション雑誌見せてって頼んできたじゃない」


「うわぁー!さーちゃんちー姉に秘密だって言ったのにぃー!」


「あら?そんな事言ってたかしらー?」


 わざわざこんなタイミングでバラさなくてもー!


「鈴ちゃん……!やっと女の子の自覚が……!」


「違うから!一年経って戻れなかったし、流石にそろそろいやでも女の子として生きて行かなきゃだろうから見るだけでもと思って!その!だからー!」


「僕は男だー!」


 こうして、今日も朝から賑やかに僕達の一日は過ぎていくのでありました。

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