第192鱗目:再会、龍娘
「そう……そんな事が」
「はい……連絡出来なくてごめんなさい」
「蒼くん……じゃなくて今は鈴香ちゃんだったわね。いいのいいの、鈴香ちゃんが元気で居てくれればそれで」
「おばさん……」
「にしてもそんな不思議な事がねぇ……世の中何があるか本当に分からないわね」
「ですねー」
ふふふと和やかに笑いながらそう言うおばさんに、僕も笑顔でふりふりとゆったり尻尾を揺らしながらオススメと言って出されたカフェオレを一口飲む。
「にぎゃいー……」
カフェオレなら行けるかもって思ったけどやっぱり苦いの苦手だぁー……
「ふふふっ、苦いものを食べた時のその反応、やっぱり蒼くんだ」
「それの確認の為にわざわざカフェオレ頼んだんですかおばさん」
「仕方ないじゃない。直感で分かっても確証なんて見るまで分からないんだもの」
「まぁそうですけど……」
カチャリとカップを置き、まるで計ったようなタイミングで店員さんに差し出されたココアに口を付けつつ、少し不貞腐れたように僕はそう言うのだった。
「でも本当によかったわ。蒼くんが無事で、しかもこんなに可愛くなって」
「んもぅ……今の僕は鈴香ですよおばさん」
「ふふっ、そうだったわね鈴香ちゃん」
「でも本当驚きましたよ。まさかおばさんがこんな所に居るなんて」
「私もびっくりよ。姉の店がある商店街に来たら鈴香ちゃんが居たんだもの」
そう、商店街の道の真ん中、突然「前の名前」を呼ばれ僕が振り返って見た人は、以前僕が住んでいた商店街を仕切る肉屋のおばさんだったのだ。
その後ここではなんだからと言われ少し路地裏に入った所にあるカフェに連れ込まれ、僕はおばさんに今まであった事を教え、今に至る。
「でも凄いわねぇ、その尻尾と翼。まるで本物……じゃなくて本物なのよね」
まぁ信じられないよね。こういう時はとりあえず触らせてみるに限る。
「本物ですよー。触って見ます?」
「あら、いいの?」
「はい!あ、でも尻尾のお腹と先っぽはダメですよ?変な感じがするので……」
「変な感じ?えいっ」
「ひゃあんっ!?お、おばさん!」
先っぽは触るなって言ったのに!
「ごめんなさいごめんなさい。もう先っぽとお腹の方は触らないから許して?」
「んもぅ……今回だけですからね」
「ありがとう鈴香ちゃん。反応的に先っぽは脇腹とかお尻を触られる感じなのかしら……」
「〜♪」
甲殻撫でられるのはやっぱり気持ちいいなぁ〜♪
「ねぇ鈴香ちゃん、今度よかったら一緒にお買い物にでも行かない?」
「あ、いいですね!僕も行きたいです!」
「決まりね。それじゃあ連絡先だけどー……」
「あ、大丈夫ですよおばさん。僕ケータイ持ってるんで」
「あの蒼く、あ、いや、鈴香ちゃんが携帯を……何だか感慨深いわねぇ」
「なんでですか!んもー、とりあえず連絡先交換しますよ」
「はいはい」
少し頬を膨らましながらそう言った僕は、携帯を見せあって連絡先を交換している最中におばさんの顔が少し陰るのを見てどうしたのか聞いてみる。
「おばさん?どうかしました?」
「え?あ、あぁ。顔に出てたのね。ごめんなさい」
「いえいえ、それでどうかしたんですか?」
「ちょっと……ね。いや、今だからこそ言うべきね」
「?」
「ねぇ鈴香ちゃん」
「は、はい」
「戻って……こない?」
戻ってこない?それって……
「あの商店街に……ですか?」
「えぇ。勿論、鈴香ちゃんには今の暮らしがあるのは分かってる。だから無理強いは絶対しないわ。でも皆貴女の事を心配してるし、やっぱり貴女が居ないと寂しいの」
「……」
「だからお願い……ね?」
確かに、僕の根源である場所はあの商店街だ。商店街の人は忙しくてあんまり構って貰えなかったけどそれでも優しくしてくれた家族同然の存在だし、僕だって戻りたい。
でも────
「ごめんなさいおばさん。僕は戻れません」
「そう……」
「僕にはこの一年で大切な家族が出来ました。優しくしてくれるお姉ちゃんに、お父さんみたいな人、一緒に暮らす兄弟みたいな仲間、みんなみんな、僕の宝物なんです」
「……」
「だから、ごめんなさい」
「いえ、いいのよ。最初から分かってた事だしね」
「おばさん……あ、でも!これからはちょくちょく商店街に顔だそうと思います!その、おばさんと会って何だか吹っ切れたので!」
「ふふふっ!楽しみにしてるわね。っと、そろそろ時間ね」
「あ、もう帰るんですか?」
「えぇ、もうバスが来る時間なの」
「それじゃあここでお開きですね」
少し寂しいけど……でも今度遊びに行くから大丈夫!
「そうね。それじゃあ楽しみに待ってるから」
「はい!」
「あ、そうそう。風の噂だけど」
「?」
「貴女の本当の家族、葉月さん達が日本に戻ってくるって聞いたわ」
「えっ!?」
あ、あの三人が!?どうして!?
「貴女と会うことは無いと思うけど、一応気をつけてね」
「は、はい。気をつけます!」
そう少し不穏な情報を残し、おばさんは僕の返事を聞いて満足そうに頷くと、お代を払ってお店を後にしたのだった。
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