191鱗目:懐かしのお買い物!龍娘!
「おい見ろよ!あれって!」「隣町に居るって話の奴じゃん!」「すげぇ!本物だ!」「尻尾動いてるよ……」「触らせて貰えるかな?」「そーっと行けばやれるんじゃね?」
おー、なんだか懐かしい反応だなぁ。僕が街に出たばっかりの頃もこんな感じだったっけ。
商店街の近くの空き地に着地し、ゆらゆらと尻尾を動かしながらこの久しぶりの懐かしい反応に苦笑を浮かべていた僕は、バサリと翼を一羽ばたきさせて歩き出す。
「さて、今日はお買い物に来たんだから。ちー姉に言われた通り変な人に絡まれる前にさっさとお買い物済ませちゃおっと……とはいえ」
ここはあの商店街に比べたら人は少ないけど、やっぱり雰囲気というか、根本にあるものは変わらない気がするなぁ。
皆の協力感みたいな?なんだか暖かい感じがするんだよねー。
「それじゃあ、目に付いた所から買っていきますか!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お、ここいいかも。
「おーじさん」
「へい!いらっしゃうぉおお!?ああアンタテレビのっ!?」
風邪が流行っている事もありお客さんも少ないからか、暇そうに商品を整理していたお店の人は僕が声をかけると元気よく振り返って返事をすると同時に、僕の姿に驚いてしまう。
「あはははは、驚かせちゃってごめんなさい。ちょっとそこのお野菜見せてもらっていいですか?」
「あ、あぁ。もちろんだとも」
「それじゃあこれを……おぉ。これ、凄くいいキャベツですね」
「……!だろう?ウチは鮮度が良くて色艶のいい野菜だけを並べてんだ!……まぁ、最近の流行病のせいで客は来ねぇがな」
「あはははは……」
でも、しっかり重みがあって瑞々しいしっとりとした艶のある濃ゆい緑の葉、他の野菜もおじさんの言う通りどれもスーパーにあるのとは比較にならないいい野菜ばっかりだ。
「それじゃあおじさん、このキャベツとそこのトマト、それとそこのネギを一箱ずつください!」
「本当かい!?まいどっ!それならこれもお負けで持ってっとくれ!」
「わわっ!これ貰っちゃっていいんですか!?」
「おう!その変わりこれからも是非贔屓にしてくれよな!」
「はい!それでは!」
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いやぁー、最初のお店でだいぶサービスして貰っちゃったなぁ〜♪
「さてと次のお店は〜っと」
「らっしゃいらっしゃい!安いよ安いよー!」
ふむ、さっきから聞こえてた元気な声はこのお店からだったのか。
あれから持ってきた袋に野菜の入ったダンボールを入れ、翼に乗せるような形で袋を背負った僕がその元気で大きい声の聞こえるお店へと視線を向けていると……
「お!そこのテレビでよく見るお嬢ちゃん!おまけしてあげるからよっといで!」
「え、あ、ぼ、僕?」
「そうそう!ほらみとっとくれ!」
ちょいちょいっとお店の中にいるおばさん可愛らしい笑顔で手招きされ、僕はそのお店に寄ることにしたのであった。
「おぉぉー。凄い、お肉がいっぱいだ」
やっぱりどの商店街にもお肉屋さんってあるもんなんだなぁ。残念ながら僕にはお肉の善し悪しはわかんないんだけどね。
「どれもいいお肉だよ!今はお客さんもそんなに来ないし、それにそんなに大きな羽があるんだ、沢山栄養が必要だろう?たーっぷりまけてあげるから買って行きな!」
「本当ですか!?」
「本当さ!このソーセージなんて絶品だよー?」
「うわぁぁぁ〜……!」
やばい、本当に質がいいからなのか僕がドラゴンだからか知らないけど、こう、スーパーの奴より凄く美味しそうに見える……!
「こっちはちょっと高いけど和牛のステーキ用のお肉でね、質もいいから仕入れるのが大変だったんだよ」
「はぁうぅぅ〜……!」
おっきくて分厚いお肉だぁ〜!お肉は皆好きだし、そんなにかさばる量でもない、一番問題なお金は正直余裕……というか使い切れない額銀行にあるし……
「よし、決めた!おばさん!」
「はいよっ!」
「そのソーセージとステーキ肉だけじゃなくて、ここに並べてあるお肉全部くださいっ!」
「えぇっ!?いいのかい!?」
「はい!」
この機会だ!せっかくだし一回やってみたかった事やっちゃえ!それにハンバーグにしちゃえば僕だけでも食べきれそうだし!
「毎度あり!ちょっと待っててご覧ね!おまけいっぱいしてあげるから!」
そう言うとおばさんは、この姿になってお肉が大好きになっていた夢の一つを叶えた僕を置いて、お店の裏へとドタバタと走って行ったのであった。
そして色々と貰った僕はその後も買い物を続け……
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「結局、なんやかんやで……」
「すげぇ」「なんだあの荷物」「全部ここで買ったのかな?」「俺、魚屋ででけぇ魚まるまる一匹買ってるのみたよ」「私はお味噌を一箱買ってたの見た」「まじかよ」
「被らなかった物は全部買っちゃったなぁ……」
いやまぁ食べようと思えば二週間あれば僕だけで全部食べ切れるけどさ。
遠くでヒソヒソと声が聞こえる中、そう言う僕の背中には僕の身長よりも高く、袋の下で支える翼くらいの大きさにまでパンパンに中身の入った袋が背負われていたのであった。
「まぁ、兎にも角にも買い物は済んだんだからさっさと帰るとしますか」
そして僕がそう言って帰ろうと商店街の出口へと歩き始めた時、ふと一人の女性と僕は目が合う。
すると女性は口を小さく明け────
「蒼くん?」
そう、僕の「前の名前」を呆然とした顔で呟いたのであった。
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