第188鱗目:ばれんたいん?龍娘!
『歪ませろ』
歪……ませる……?何……を……
『穿て──の壁を、そして────』
穿つ……壁を……?
『──を元の在るべき姿へと────』
在るべき……姿……
「…………夢?」
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「ばれんたいん?」
「そ、バレンタイン。すずやんは誰かチョコ渡したい人とかおらんの?」
「チョコ?渡す?」
なんだそれ、ばれんたいんって言うのは聞いた事あるけど……そのばれんたいんとかいうチョコを人に渡すの?
冬休みも明け二月になり、ようやくお正月の雰囲気から皆が脱し始めた頃、寒さ対策のもこもこ尻尾カバーを付けた尻尾を体に巻き付け皆とお昼ご飯を食べていた僕は首を傾げる。
「……もしかしてすずやんバレンタインを知らない?」
「聞いた事くらいはあるよー。それで?そのばれんたいんってチョコはどういうのなの?作れる?」
「「「「えっ」」」」
「ん?」
「ちょっ、ちょっと待ってすずやん……」
「まさかそんな……いやまさか……」
「えっえっ」
ど、どうして皆そう頭を抱えるのっ!?
「そ、その、僕、何か間違った事言っちゃった?」
「えっとね鈴、バレンタインっていうのはチョコの名前じゃないの」
「えっ!?そうなの!?と、という事はもしかして……ばれんたいんはクリスマスみたいなイベントって事?」
「あぁ、ちなみにバレンタインは親しい人にチョコをプレゼントするってイベントであって、バレンタインっていうチョコを人にプレゼントする日ではないぞ」
「はぁあうぅ!」
素で!素で何も考えず間違った事言っちゃってたぁー!
ピーッという音が聞こえそうな程一瞬でヤカンのように耳まで真っ赤にし、礼二達にそう言われた僕は机に突っ伏して顔を隠す。
「すずやんってほんまイベントの類知らない事多いもんなぁ。まぁそれもすずやんの可愛い所なんやけど」
「うぅぅ……可愛い言うなぁー」
「ははははは……っと、もうお昼休み終わりみたいやな。それじゃあすずやん達、また放課後ー」
「はーい」
「またなー」
「ばいばーい」
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「ふぅむ……」
ケーキにするか……だけどクッキーも、いやここはそのままもありか……
「すーずちゃん!」
「うひゃあ!?びっくりしたぁ……もー、やめてよちー姉」
あれから数日後、エプロンを装備してキッチンに立っていた僕はそう言って頬を膨らましながら、後ろから抱きついてきたちー姉の腰に尻尾を巻き付け引き剥がす。
「ごめんごめん。それで、今日は何作ってるの?お姉ちゃんはムースがいいなー」
「ちー姉はムース好きだねぇ。今日はチョコ作ってるんだー」
「チョコ?」
「うん、チョコ」
「鈴ちゃんもしかして好きな男の子が……」
「居るわけないでしょー。バレンタインだからいつもお世話になってる人達にチョコ渡そうと思って」
というかそもそも僕は男だ、好きになるなら女の子だ。ん?でも今は女の子なんだから好きになるのは男の子で……ん?ん?
……よし、深く考えないことにしよう。
「あぁそうだったの……ちょっと残念」
「ちー姉何か言った?」
「ううん何も!それよりも、お世話になってる人って事は私にも!?」
「うん、もちろんだよー。明日を楽しみにしててねー」
「はーい!鈴ちゃんからのチョコレート、楽しみだなぁ!」
ちー姉ウキウキだなぁ。それじゃあ僕も期待に応えれるよう、一つ頑張るとしますか!
そう言ってスキップしながらリビングを出ていくちー姉の姿を見送った僕は、そう改めて気持ちを引き締めるとチョコ菓子作りに精を出したのであった。
一応、僕の配ったチョコはとても好評だったという事だけは報告しておこう。
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