第186鱗目:お年玉!龍娘!

「──ゃん、─きて鈴ちゃ──着い──、起き─起きて鈴ちゃん」


「んん……ちー姉?」


 ここは……僕は確か…………


「ふふふっ♪年明け前から寝ずにはしゃいでたからかな?鈴ちゃんったら車に乗った途端かくんって寝ちゃったんだよ?」


 車……あぁそっか、確か僕皆で初詣行ったあと家に帰って着替えて、それから新幹線に乗って……


「移動用にちー姉が用意してた大型タクシーで……」


「やーっと思い出した?鈴ちゃん後部座席に座った途端かくーって寝ちゃって、翼とか尻尾大変だったんだよ?」


「あはははは……申し訳ない」


 ちー姉に揺さぶられもぞりと起き上がった僕は、ちー姉と話しながらそういえばそうだったと今の状況を改めて思い出し、ガタガタと走っている車の窓から外を見る。


「戻って来たんだね。ちー姉の……いや、僕達の実家に」


「うん、帰ってきたんだよ。私達の実家にね」


 山の間から朝焼けの指す中、僕達はそう話していた。

 そう、僕達も隆継やさーちゃんが実家に帰るように実家へと戻ってきていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 うひゃあー、やっぱり大きいなぁ。


「ただいまー」


「た、ただいまー」


「おかえりなさい。よー帰ってきたね千紗、それに鈴香」


「はい……おばあちゃん」


 久しぶりに、今度はちゃんと玄関からきちんとおばあちゃんに迎えてもらい、僕は相変わらずその大きな家に上がらせてもらう。


「ちょーっと見らん間にこぎゃん大きくなってから、前はもう一回り、んにゃ二回りは小さかったとに」


「あはははは……」


 流石にそんなに小さくはなかったよね?にしても、相変わらずおばあちゃんの訛り凄いなぁ……


「そんなら、そぎゃん大きくなった鈴香にはお年玉ばやらんとね」


「おとしだま?」


 おとしだま?落とし玉?え、玉を落とすの?何に?なんかやばそう危なそう。


「そうだった、私も鈴ちゃんにお年玉用意してたんだった」


 ちー姉も落とし玉を!?


 おとしだまという聞きなれない単語を聞き、なんだそれはと想像をしていた僕は、おばあちゃんとちー姉がポケットやバックに手を突っ込んだのを見て思わず身構える。

 そして────


「はい、お年玉」


「……袋?」


 どう見ても袋……だよね?玉は?落とす玉は?


「もしかして鈴ちゃん、お年玉が何かわかってない?」


「う、うん……てっきりなんか玉を落とすのかなって」


「鈴香はお年玉すら知らんかったとか……千紗」


「な、何?ばあちゃん」


 訝しげに2人から僕が袋を貰い、思っていたことをそのままちー姉達に伝えるとおばあちゃんは一瞬唖然とした表情を浮かべた後、ちー姉に小声で話し始める。


「あーた、ちゃんと鈴香の面倒みとっとね?お年玉ば知らんなんておかしかにも程があるばい」


「そ、そぎゃん事言われても……私だってまさか鈴ちゃんがお年玉を知らないなんて思ってなかったんだから」


「とにかく、まちーっとあん子にも色んな事ば体験させてやりなっせ。それこそあーたやばあちゃんが普通って思っとる事から」


「う、うん」


「えーっと……ちー姉?ばあちゃん?」


 さっきからなんか割と失礼な事を言われてるような……


「な、なんでもなかよ」


「う、うん!なんでもないよ!ほ、ほらっ、鈴ちゃんそのポチ袋開けてご覧」


「わ、分かった」


 こそこそと話していた二人にそう言われ呆気に取られていた僕が、はぐらかそうと慌てた様子のちー姉にそう急かされ手に持っていた袋を開けてみる。


「お金?こっちもお金……あ、もしかしてお年玉ってそう言う?」


「そうそう、大切に使いなさいよー?」


「うん!」


「さっ、それじゃあーた達にはまた料理ば手伝って貰おうかねぇ」


「「はーい」」


 こうして、僕の三日間の里帰りが幕を開けたのだった。

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