第179鱗目:クリスマス大作戦!

 これは翼と尻尾を持つ一人の女の子に夢を与えるべく奔走した人々の、二日に渡る大作戦の軌跡である。


 12/23日ーーーーーーーーーーーーーーーー


 コンコンッ


「はーい」


「鈴ちゃん入っていいー?」


「ちー姉?いいよー」


「おじゃましまーす」


 クリスマスの三日前、お昼を過ぎた時間に鈴香の元を訪れた千紗は許可を得ると躊躇いなくドアを開け、修理され元通りになった鈴香の部屋へと入る。


「勉強中?」


「うん、今日から学校だったから、休んでた分やっとかないと」


 偉いー!うちの妹いい子だー!


「それでちー姉、何か用事があるんでしょ?」


「あっ、そうそう。はいこれ」


「何これ?手紙?」


「うん、それに欲しい物を書いてお家のポストに入れておくとプレゼントが貰えるんだよー」


 若干騙しているという罪悪感を覚えつつ、鈴香に手紙を渡した千紗がそう説明すると、鈴香はまじまじとその手紙を眺めた後──────


「なるほど!そういう事だったのか!ありがとちー姉!書いてから入れてくるね!」


 流石鈴ちゃん、純粋だなぁ……まぁそこがまた可愛いんだけど。


「うん、お願いね。今日中なら大丈夫だから」


「はーい!」


 心底納得したような表情でテンション高くそう言うのだった。

 そして夜────


「さて鈴香はなんて書いたんだろうか」


「ま、確認してみればわかる事だよ」


 家のポストに向かいながら、千紗と隆継はそんな話をしていた。

 ちなみにさなかは鈴香が起きて来てもいいよう見張り兼閉じ込め役である。


「お、あったあった」


「ねぇねぇ、なんて書いてある?」


「千紗さん落ち着いて。えーっとなになに……「お姉ちゃん達ともっと仲良く楽しく過ごせるような素敵な物をください」っと」


 鈴ちゃん……!いい子だけどもっと欲を……!


「ん?端の方になんかちっちゃく……「家庭用洗剤があると嬉しいです」主婦か!」


「あはははは……」


 鈴ちゃんらしいなぁ。


「とりあえずどうしましょう?クリスマスプレゼントに家庭用洗剤は……」


 鈴香の手紙を確認し、部屋へ戻りながらそんな会話をしていた千紗は、少し考えた後、こうなればというふうにぺちぺちと頬を叩き、次の作成を隆継につたえたのだった。


 12月24日ーーーーーーーーーーーーーーー


「すずやんのクリスマスプレゼント?」


「そそ、千紗さんが「こうなれば皆に聞いて鈴ちゃんにそれ全部プレゼントする!」って言い出してさ」


「なるほど、確かにあの人らしいな」


 次の日、学校に来た隆継達はやはり話しておくべきだろうという事で虎白や龍清に昨晩の事を話していた。

 ちなみに鈴香は今日も今日とてあの雪崩の一件で職員室に呼び出されている為教室には居ない。


「それにしてもすずやんサンタさん信じとったんやなぁ。相変わらず可愛いなぁあん子は」


「はははっ。まぁそういう事だ、それでどうだ?何かいいものあるか?」


「んーそうやなぁ、ここで言うだけでもええんやろうけどせっかくやし……たかくん、放課後付き合ってーな」


 そう言ってにやっと悪い笑みを浮かべる虎白に隆継は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「えへへぇ〜〜みんなしゅきぃ〜〜〜」


「現物は初めて見たが……こりゃあ破壊力やばいな」


「ほんま、これはすずやん可愛すぎるで……!」


 ふやふやとした顔でそう言う鈴香はクリスマスイブの宴会中「誤って」酒を飲んでしまい、前にも1度あった酔っ払い甘えん坊とろとろ鈴香と化していた。

 ちなみに元の作戦では鈴香を睡眠薬で眠らせた後、皆でお布団に運び枕元に持ち寄ったプレゼントを置くことになっていたが……


「アクシデントとは言え睡眠薬を盛る必要無くなったな」


「鈴ちゃんって割と気が抜けてる時はおっちょこちょいなんだよねぇ」


「ふみぃ〜ゅう〜〜…………すー……すー」


「あ、寝た」


「一通り好き好き言って寝ちゃったわね……」


「鈴香は本当に皆の事が好きなんだな……さっ、布団まで鈴香を運ぼうか。よーし皆手伝ってくれー」


「「「「「はーい」」」」」


 その後、無事布団まで運ばれた鈴香の枕元にプレゼントは置かれ、クリスマスの作戦は幕を閉じたのだった。


 そして翌朝────


「ちー姉ちー姉ちー姉!みてみて!枕元にあったの!いっぱい!たくさん!」


 一人の少女に満面の笑みを浮かばせることが出来たのだった。

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