第180鱗目:冬休み!龍娘!

「────から、くれぐれも学生としての自覚をもった節度ある行動をするように」


「「「「「はーい」」」」」


 ーーーーーーーーーー


「いやー、終わったねぇ。二学期」


「だな。まぁ色々あったが無事に終わってよかったよかった」


「三学期もまず間違いなくどう足掻いても必ず絶対に何かに巻き込まれるんでしょうから、少しでも少なく済むように鈴はお祈りしないと行けないわね」


 最早最初っから何かあるのは確定なの!?


「そんな事ないよ!?少なくとも三学期は平和に過ごせると思う……よ…………うん、多分、きっと、恐らく……」


「全然自信無いじゃねぇか」


「うぅぅ……だってぇ~」


 こうなってから今まで何も無かった試しがないもん!


 そう今までの経験を元にさーちゃんや隆継とそんな話をしながら、僕は終業式の後家へと皆で帰っていた。


「それで、今日は二人来るのか?」


「お昼過ぎに来るって」


「それじゃあ早いとこご飯作って食べなきゃね。ただいまーっと」


「あ、鈴ちゃんおかえ────」


「おかえりなさい!」


「うおっ!?」


 な、何っ!?なんかちっちゃいのが!?


「鈴!?」


「鈴香!?」


「だ、大丈夫~」


 玄関を開けた途端小さな何かの突進を受け押し倒された僕は、ひらひらと手を振りながら二人に大丈夫だと伝え、今も自分の体の上にいるその何かを見る。

 それはぷにぷにとしてそうな小さな手と、まだまだ未発達な短い足、僕より長めの黒色の髪をもつ────


「ふわー!本物だー!」


 小学一年生程の可愛らしい幼女だった。


 ーーーーーーーーーー


「んー!」


「……凄い懐かれ様だな、鈴香」


「何処かでたらしこんだのかしら?」


 たらしこんだって……


「えーっとそれで……これはどういう…………」


 思わずさーちゃんの言ったその冗談に苦笑いを浮かべつつ、尻尾に抱きついて離れないその子の事を僕がちー姉に尋ねると────


「その子の事なんだけど────」


「それは、俺が説明しよう」


「「「!?」」」


 誰!?というかいつの間に!?


 いきなり後ろから話しかけられ僕達が驚いて振り向くと、そこには少し初老といった様子の偉丈夫の男の人が立っていた。

 そして……


「あ、じいじ!」


「「「じいじ!?」」」


 この人が!?このごっついおじさんが!?この子のおじいちゃん!?


「あ、会長」


「「「会長!?」」」


 会長!?会長って……なんの会長!?


「あーもう、だから言ったじゃないですか、びっくりさせるから大人しく待ってようって」


「あ、三浦先生!どういう事か説明してください!」


「すいません、アタシからもお願いします」


「俺からもお願いします。もう訳わかんなくて」


 意外すぎる情報の波に翻弄されていた僕達は、ひょいっと扉から姿を表した三浦先生へと助けを求めたのだった。


「という事は……そのおじ……おじさまは日医会の会長さんで」


「おう」


「この子はその会長さんのお孫さんで」


「梨奈だよー!」


「……梨奈ちゃんで。年末で親御さんもおじさまもお仕事が忙しいから冬休みで丁度いいし、31日までの5日間僕達に預かっててくれと」


「まぁそういうことだ」


「そーいうことだじゃないですよ!」


 僕はそう言うと勢いよく立ち上がり、ガクガクと三浦先生の肩を揺さぶる。


「いきなり一人増えたら食材足りないでしょ!それに小さい子なんだから好き嫌いとかも!」


「あ、そこなのね鈴」


 あの後一度落ち着くために休憩した後、僕達は三浦先生に一から丁寧に説明して貰い、結局梨奈ちゃんをどうするかという話になっていた。


「それで、どうする鈴ちゃん」


「え、僕が決めていいの?」


 てっきりちー姉が決めるものだと思ってたけど。


「うん。持ち主こそ私でもこの家の主は鈴ちゃんだし、鈴ちゃんが決めるべきだよ。ね、二人共」


「あぁ、俺もそう思うぞ」


「鈴がいいなら居させてあげなさい。もし断っても誰も責めたりなんかしないわ」


「二人共……」


 皆は受け入れても良さそうだけど、正直どんな理由があろうとこれくらいの歳の子なら親と一緒に過ごすべきだよね。


「……うん。三浦先生」


「ん、決まったか?」


「はい、会長さんも僕を信じてこの子を預けてくれるんでしょうけど、この子の為にもこのお話はお断りさせて────」


「鈴香おねーちゃん、梨奈一緒にいちゃだめ?」


「……頂こうかと思いましたがやはり小さい子を一人にしておくのはやはり危ないと思うので喜んでお受けしようと思います」


「「「えぇぇっ!?」」」


「おぉ、引き受けてくれるか!」


「ありがとう鈴香、会長よかったですね」


「あぁ!鈴香くん、感謝するよ」


 こうして、冬休みの短い間だけだが僕の家にもう一人新しい家族、厳武梨奈ちゃんが増えたのだった。

 決して、決してお姉ちゃんと呼ばれてときめいてしまった訳ではない。

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