第159鱗目:墓穴、龍娘
「いやだ!」
「そこをなんとか!」
「お願い天霧さん!」
「やだったらやだっ!」
体育館裏の一角、賑やかな体育館とはうってかわり静かなその場所に、何かを断る可愛らしい高い声が響く。
「クレープ買ってくるから!」
「うっ……」
「天霧さんと仲良くしてた人達も喜んでくれると思うよ?」
「うぅぅ……それでもやだっ!」
そう言って僕は、目の前で手を合わせてお願いしてくる開催委員の人からぷいっと顔を逸らす。
一体僕が何をここまで嫌がり、お願いを拒否しているのか、それは数分前に遡る。
ーーーーーーーーーーーー
「ミスコンに出てくれだってぇー!?」
二人のおめでたい報告を聞いた後、三浦先生達を連れて一通り出し物の案内を終わらせた僕は、何故だかとても焦った様子の先輩に体育館裏に連れられたかと思うと、いきなりそんなお願いをされていた。
「お願い天霧さん!もうプログラムにも組み込んじゃってるの!」
「いっ……」
いやいやいやいやいやいやいやいや!
ミスコンに?僕が!?なんの冗談だ!?
と、とりあえず落ち着け……相手側にも何か理由があるはずだ。
「えーっと……とりあえず説明して貰えますか?」
「はい……」
どうしてそうなったのか僕が先輩に尋ねると、先輩はしゅんとしながら説明してくれた。
まず事の発端は特別ゲストでミスコンに出る予定だった前年度のミスコン優勝者の先輩が来れなくなり、その先輩の穴埋めとして僕が採用されたという。
しかしながら当事者の許可なく出てもらうのはやはりダメであり、勿論僕の許可を取ろうとクラスの男子達に大丈夫かどうか聞いておくように頼んでおいた所…………
「その男子達が僕に聞かずにOKをだしてそのまま受理されたと……」
恨むぞ男子ィ〜……後で思いっきりデコピンしてやる…………
「本当にごめんなさい!ちゃんと後で確認を取るべきだったのに取らなくて!」
「まぁ仕方ないですよ、バタバタして忙しかったでしょうし……」
「なら!」
それに先輩達には悪気無さそうだしね、でもまぁ……
「ヤ・ダ♪」
ーーーーーーーーーーーー
そうして今に至るのである。
「天霧さんどうしても?」
「どうしても」
「そこをなんとか!」
「だーめ」
だっていくらそっちにも事情があるとはいえ、こっちは勝手に選ばれた挙句許可も取ってもらってないもの。
「うぅぅぅ〜……どうしよう〜」
あっ、泣きそうな顔に……いやいや、ダメだぞ僕。お涙頂戴は定番の戦法じゃないか。
「あらこんな所で何をやってるの?それにその人達は?」
「あ、さーちゃん」
僕を探してくれていたのかひょこっと現れたさーちゃんを見て、やっと開放されると思った僕はぱぁっと顔を明るくしてどういう状況かを説明する。
するとさーちゃんはにこっと笑い──────
「せっかくだし出てみたらどう?」
「えっ?」
僕にそう言ったのだった。
「たまにはこういう女の子じゃないと楽しめないようなイベントもいいんじゃない?それに鈴なら人前も一応大丈夫だし、そういった意味ではある意味先輩達が鈴を選んだのは正解だったかもね」
「え、いや、えと」
「それにこれに出るのは立派な人助けになるし、鈴も断る理由はないんじゃない?」
「うぐっ……!」
さーちゃんが敵に着くなんて……なにか、なにかここを切り抜ける手は…………そうだっ!
「で、でも!ミスコンって綺麗な女の人が出るやつでしょ?その、僕が出るようなものじゃないと思うんだけど…………さーちゃん?」
僕の発言の後なんだか雰囲気が一気に静かになった気がして目を開けると、そこには明らかに不機嫌になった様子のさーちゃんが居た。
「え、えーっと……さーちゃん?」
「鈴は全女性に喧嘩を売ってるのかしらー?女の人なら誰もが羨ましがるくらい可愛い顔をしてるのに?」
「ち、違う!そうじゃない!僕が出るようなジャンルじゃないって話!」
「ジャンル?」
「そう!ジャンル!自分で言うのもあれだけど、さーちゃんが言ってたみたいに僕って綺麗、美人っていうよりも可愛いとかそういう感じでしょ?だから美人さんとかが出るものには合わないんじゃないかなぁーって」
「…………なるほどねぇ」
よかった……なんとかさーちゃん怒らせないで済んだ…………
「それなら余計出ても大丈夫ね、だって皆が求めてるのは綺麗じゃなくて可愛いだもの」
えっ。
早口で言い訳し、なんとかなったと心の中でふぅと一息ついていた僕は、悪い笑みを浮かべるさーちゃんにそう言われカチンと固まる。
「え、えと、それってどういう…………」
「あら知らないの?えーっとそこの貴女、チラシ持ってるわよね?」
「あ、はい。これですが……」
チラシ?
「ありがとう。ほら鈴、ちょっとここ読んでみなさい」
下の方?えーっとなになに……
「我こそはというかわいい女子生徒募集、そのかわいさで男子を魅力しろぉ!?」
それって……それって…………
「思いっきり墓穴を掘ったってことになるじゃんかぁ!」
「あはははははは……まぁ、そうなりますね。あ、勿論綺麗な人も大歓迎ですよ!」
「んー、アタシは申し訳ないけど遠慮願うわ。さて、それじゃあかわいいかわいい鈴ちゃん、観念して行きましょうね?」
「いやだぁぁぁぁぁぁ!」
まるで断末魔の様な叫び声を上げながら、僕はそういうさーちゃんに連れられミスコンの控え室へと連れていかれたのだった。
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