第160鱗目:ミスコン!龍娘!

「ね、ねぇ……本当にこれ着なきゃダメなの…………?」


 体育館備え付けの女子更衣室、この文化祭で大活躍している被服部に渡された服を広げた僕は、口元をヒクつかせながらそう尋ねる。


「うんお願いね!その仮装もとーっても可愛いけど、やっぱりこういう舞台ならそういった感じのが方合うでしょ?」


「ま、まぁ確かにそうだけど……」


 うわぁ……突貫なのかはわかんないけど翼用と尻尾用の穴まで開けてある…………ん?ちょっとまてよ……


「メイド服も穴開けてあったし、エプロンも地味にあれ僕専用みたいにしてあったし……もしかして最初から……?」


「さぁなんのことでしょう?」


 これ絶対最初から仕組んであったやつだ!え、なに、もしかして僕この文化祭で被服部にコントロールみたいな事でもされてたの?

 こわっ!


「まぁそれはおいといて、いつもつけてるそのチョーカー、この服には少し微妙ね……外してもいい?」


「……!だっ、だめっ!これだけは絶対だめっ!」


 被服部の人がそう言って僕の首に手を伸ばして来た瞬間、僕は服を手放し目にも止まらぬ速さで自らの首を抑えつつ必死の形相でそう言う。


「ご、ごめん!そんなに大事な物だとは思わなくて……それじゃあ代わりと言ったらあれだけど、そのチョーカーの上からこれつけて貰える?」


「……それでいいなら…………」


「ありがと!それじゃあ服もお願いね!私他の子の髪型少しセットして来るから!それじゃ!」


「あ、はい…………ってあぁっ!!」


 結局断り損ねたぁぁぁ!


 被服部の人がさりバタンと閉まる扉を見届けながら気の抜けた返事を返した僕は、扉が閉まりきった所で上手い具合に逃げられた事に気が付き、声を上げたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


 うぅぅぅ……ドキドキするぅ…………やっぱり僕には似合わないよこういうの……


『さぁそれでは、皆様お待ちかね!特別ゲストのご登場です!』


「きたっ!きたっちゃったっちゃあ!」


「天霧さん落ち着いて!はいすってー、はいてー」


「すーーーー……はーーーーーー……落ち着いた」


 思ってたよりも緊張していたらしく、開催委員の人に言われた通り深呼吸した僕は明らかに気持ちが落ち着いて行くのを感じた。


「それならよかった。それにそんな緊張しなくても大丈夫だよ天霧さん」


「そ、そう?」


「うん、だってその衣装すっごい似合ってるもの。仲良くしてた人達もきっと褒めてくれるよ!さっ、胸を張って行っておいで!」


「うん、ありがとう!誰かわかんないけど!」


「私は被服部の部長だよー」


 お前が黒幕だったのかい!


「セリフ、忘れてないよね!」


「大丈夫です!というか緊張の殆どはそれが原因です!」


『それでは改めて、今年度のミスコン特別ゲストはこの方!』


 内心全力でツッコミを入れながら、僕は司会の声に合わせ暗転しているステージの中、委員長さんにそう言い残しコツコツコツと靴音を立ててステージの中央に移動し始める。


『それでは皆様!せーので呼びましょう!……せーのっ!』


「「「「「「「お姉さまーーーっ!」」」」」」」


 体育館に集まった生徒達が男女関係なくそう言うと、バチンと音を立てステージのライトが付き、それと同時に──────────


「べっ、べつに!貴方達の為にこのような場所へ来た訳ではなくってよっ!」


 カツン!と一際大きな靴音を立て、薄灰色の髪と共に黒いフリフリのドレスを翻し、観客席の方を向いた僕は勢いよくそう言い放つ。

 そしてしん……と一瞬会場が静まり返った次の瞬間僕は─────────


「─────っ!はぅぅぅぅぅぅぅ〜っ!」


 ぼっ、と顔を真っ赤にして脇目も振らず勢いよくステージから大きくジャンプし、体育館の入口付近に着地してそのまま逃げ出して行ったのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「んで、全力で逃げた龍娘さんはその後の投票で無事1位を獲得してしまいましたとさ、という事だな」


「やめろぉ〜言うなぁ〜」


 おかげで来年もミスコン出なきゃ行けなくなったじゃないかぁ!


 あの後、今年のミスコンを決める投票が行われた結果、可愛い、尊い、などのコメント付きで最も投票数の多かった僕がミスコンの座を取ったのだった。


「そういや、なんかすっげぇ悔しがってた金髪の人が居たらしいぞ」


 ん?金髪?どこかで見たような…………まぁいいか。


「でもまぁ、楽しかったわね文化祭」


「そうだな」


「だね。うん、確かに色々あったけど、それだけは間違いないね。本当、色々あったけど」


「はははははっ、また来年も楽しもうな」


「うん、でもせめて今年よりは落ち着いて欲しいかな」


「それは無理な相談ね」


「頼むから無理にしないでくれ」


 こうして夕日の沈む帰り道、隆継とさーちゃんの2人と共に楽しく笑い合いながら、僕のトラブルだらけの文化祭は幕を閉じたのだった。

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