第158鱗目:思わぬ吉報!龍娘!

 いよいよ文化祭も最終日となる三日目、案の定昨日のようにまともに働かせて貰えず外回りに移された僕は────


「いやー綺麗な翼だ、うちではアクセサリーを────」


「うちでは色々な物を扱っていてね、角が生えてるんだろう?是非とも見せて────」


「噂には聞いていたが本当に可愛らしい美人だ、今度是非ともうちの雑誌に────」


「あはははは……」


 三日目のお客さんである企業のお偉い方々に捕まっていた。


「あれで何人目やっけ?」


「17人目ね」


「うわっひゃあ……流石すずやんや、まだ教室でて30分も経ってないのに…………でも尻尾も振ってるし、まだそこまで機嫌は悪くないんかな?」


「そうなのかしら……確かに顔はいつも通りニコニコしとるけど…………」


「それは違うよ」


「「あ、千紗さん」」


「よく見て二人共、鈴ちゃんの尻尾の振り方、横とか縦じゃなくて先っぽで円を描くみたいにくるくる回してるでしょ?」


「あ、確かに」


「あれってね、鈴ちゃんがすっごいストレス感じてる時にやっちゃう癖なのよ」


「へーそうだったんやね……ってそれなら!」


「そういうこと!ということで二人共、鈴ちゃん助けるよ!」


「「は、はい!」」


 ーーーーーーーーーーーー


「気づいてたならもっと早く助けてよ……」


「ごめんなさい、流石に連続で続いてると割り込む隙がなくって」


「後でクレープ奢るから許してやすずやん、な?」


 周りからみても明らかに疲れているのがわかる程ぐでっと翼と尻尾を垂らしながら、僕は謝る2人を前にしてぶすっと頬を膨らませていた。


「それはそうと、なんで当然の如くちー姉いるの?今日は確か一般参加お断りのはずだけど」


 居て当たり前って言うくらい自然に居たから最初違和感無かったよ。


「それはだな鈴香、今日天霧は日医会として来てるからだ」


「…!今のってもしかして!」


「よう!元気にしてたか鈴香」


「三浦先生に柊さん!それに叶田さんに陣内さん、柏山さんまで!お久しぶりですー!」


「おぉ……一気に上機嫌…………」


「やね……」


 僕は突然現れた久しく会ってなかった日医会の皆を見て、嬉しさに尻尾をブンブンと振って皆の元へと駆け寄る。


「いやー、まさか日医会がこの学校と関係あるって思ってなかったですよー」


「そりゃあ鈴香が入学したから関係持った様なもんだしな」


 なるほどね。というか……なんだかさっきから皆の目がキラキラしてるような……


「姫ちゃん!その衣装かわいいね!」


「やっぱそうっスよね!いやー!もふもふな尻尾!すっげぇかわいいっス!」


「それにその被り物も、とってもかわいいな」


「もー、恥ずかしいからやめてよ皆ー」


「皆も言ってるが、すっごく似合ってるぞ鈴香。その狼女の────」


「狼男」


「……狼女の────」


「狼男」


「…………狼男の衣装」


「でしょー?僕もそこそこ気に入ってるんだ〜♪もふもふだし」


 僕は三浦先生が間違いを訂正したのをちゃんと聞くと、にっと笑顔を浮かべてからそう言ってくるりと回る。

 そんな僕の今日の衣装は皆の言った通り、茶色の毛並みの尻尾に狼のフードを被ったちょっと着ぐるみみたいな狼女、もとい狼男の衣装だ。

 ちなみに翼は意図的に垂らす事でマントみたいにしている。


「ふふふっ、もう姫ちゃんもすっかり女の子だねぇ」


「そんな事ないもーん……ってあれ?」


 叶田さんの指に何か……


「指輪?」


「あぁこれね、いつか姫ちゃんにも報告しなきゃって思ってたんだよ」


「?」


 叶田さんは少し恥ずかしそうにはにかみつつ、首を傾げていた僕の頭を撫でると、グイッと柏山さんの腕を引っ張って────


「実はね、ウチ柏山くんと結婚するんだー!」


「「「えぇー!?」」」


 にっと笑いながら、そう言って2人は左手薬指にはめた指輪をキラリと輝かせ、僕やとらちゃん、さーちゃんの方へと見せてくる。


「えっ!えっ!すごい!えっ!」


 結婚!?結婚ってあれだよね!?だいすきーって2人がもっとすきーってなってずっと一緒に居たいからなるやつだよね!?うわーっ!うわぁーっ!


「おめでとうございます!」


「おめでとうございます!結婚いいなぁー!」


「ありがとね二人共、それに実はもうお腹に赤ちゃんも居てねー」


 はわわわわ!赤ちゃんまで!まさか2人がそこまで仲良しさんだとは…………


「えと!えっと!二人共本当におめでとー!」


「ありがとう姫ちゃん!ううん、鈴香ちゃん!」


「姫ちゃんのおかげで叶田さんと仲良くなれたんっスよ、本当に、本当に鈴香ちゃんありがとうな!」


 ぎゅーっと叶田さんと抱き合いながら、突然の吉報に感極まった僕は混乱しながらも、めいいっぱい心の底から2人にお祝いの言葉をかけるのだった。

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