第122鱗目:能力実験!龍娘!

「三浦先生おはようございまーす!」


「お、来たか鈴香。おはよう、昨日はよく寝れたか?」


「はい、とってもぐっすり!」


 いつも10時には寝るけどこの日の前は8時には寝るもんね!


「それは良かった、それじゃあ今日も頑張ろうな」


「もちろんです!頑張りますよー!」


 日曜日の朝早く、バサリバサリと慣れた調子で翼を羽ばたかせ日医会の屋上に着地した僕は、いつもより高いテンションで三浦先生へと手を振りながら駆け寄ってそう話す。


「まだ4回目だけど本当に鈴香はこれやる時いつもテンション高いな、そんなに楽しみにしてるのか?」


「はい!だって好き勝手にできますし、それになんかスッキリするんですよ!」


 言うならばこう…………空気の入れ替えというかガス抜きというか、限界ギリギリまで溜まってた古い物を全部出した感じ?


「ちなみに今日の担当は叶田と柊だ、あの二人とは久しぶりだったよな?」


 おぉー!あの二人か!確かにあの二人とは久しぶりに会うなぁ。


「お、テンション更に上がったみたいだな。それじゃあいつも通り実験室に行っててくれ」


「はーい!」


 僕は尻尾を振りながらそう元気よく返事をすると、三浦先生の指示通り実験室へと浮かれ気分でスキップをしながら向かうのだった。

 そして僕が何故せっかくの日曜日に日医会へ来て、実験室なんかに向かっているのかというと、それは──────


 ーーーーーーーーーーーーーーー


水晶壁ドゥ!」


 ギチチチチチチチチ……


「「「おぉー」」」


 僕が三浦先生を見ながらそう一言言うと、真っ白な床から3メートル程の高さと、10メートル程の幅がある結構分厚い水晶の壁が、僕と三浦先生の間に鈍い音を立てて生み出される。

 そう、僕がここへ来た理由は僕の能力と水晶の研究、及び実験をする為である。


「よし!やっと掛け声だけで作れましたよ三浦先生!」


「だなぁ………本当に掛け声1つで思った通りの形の水晶を作れるようになるなんて……これなら金城先輩との模擬戦でも使えるんじゃないか?」


「ふふふふふふ……!もとよりそのつもりで練習してたんですよ三浦先生!」


「そんな事だろうとは思ってたが…………やっぱりそうだったか」


 だってそうでもしないとあの人本当にどうしようもないんだもん!この間なんて僕を背負い投げしたし、やっぱあの人人間じゃないよ。


「まぁそれはともかく、やり過ぎには注意しろよ?前それで動けなくなったんだから」


「はーい、気をつけまーす」


 メキキキキと音を立てて作った水晶を地面から引き剥がしつつ、僕は苦笑いを浮かべつつ三浦先生に返事をする。

 何故僕がそんな注意を受けたのかと言うと、どれくらい水晶作れるのかと前にこの中層にある100メートル四方の大実験室を3回ほど水晶で埋めつくした結果、倒れて1歩も動けなくなったからだ。


 それにしても、やっぱりこの言葉に紐付けてイメージが思い浮かぶようにするっていう三浦先生の案凄くいいなぁ。

 何百回もやってようやくだけどすぐに水晶作れるようになったし……


「水晶壁《ドゥ》!」


 後は作りたい時にグッとその場所に集中すれば、メキキキキってその形で水晶が出来上がるもん。


「んで次の数字はtriな訳だが、どんなのにするつもりなんだ?」


「こう相手の足を巻き込んで水晶作って移動の邪魔にでもと、ところでもうひとつのウヌもですけどこのドゥとかってなんの数字でしたっけ?」


「エスペラント語っていう言葉の数字だ、1からunn、du、tri、kvar、kvin、ses、sep、ok、naŭ、dekって数える。まず日常生活じゃ殆ど使われない言語だから間違えないだろう」


「まぁ確かに……うぬ、どぅ、とり、くう゛ぁる、くう゛ぃん、せす、せぷ、おく、なう、でく…………確かにまず使わなさそうですね」


「だろ?それじゃあそろそろ今日の実験の方頼んだ」


「はーい」


「姫ちゃん手慣れてきたねぇ」


「何回も同じ事やってるからね。さてそれじゃあ三浦先生にも言われたし、そろそろ今日も実験しよっと」


「お、やるのか。なら怪我とかしないようにな」


「やり過ぎはダメだからね?」


「もちろんですよ柊さん叶田さん。さてそれじゃあ始めますね!」


 僕は作った水晶を2人の押す20トンまでなら運べるという電動の手押し荷車に乗せると、そう言っていつものように今度は色んな形の水晶を作り始める。


「なぁ鈴香」


「なんでしょう三浦先生」


 とりあえず次は東京タワーを作ろうかな?


「それっていつもどんな感じで作ってるんだ?」


「こう、頭の中でイメージした形になんかググって流し込むような?」


 なんて言ったらいいんだろう?むずかしいなぁ…………とりあえず力をこうぐーって込めるのは確かなんだけど。


「鋳型に溶鉄を流し込むみたいな感じなのか?俺にも出来たり……するわけないか。んで次のやつも完成したみたいだな」


「あ、もう出来てたのか」


 どう説明すればいいのかと頭を悩ませている内に、僕のすぐ近くには手元にある写真通りの東京タワーが水晶で出来上がっていた。

 しかし考え事をしながら作っていたせいかその水晶東京タワーは、いつも作ってる水晶とは違ってなんだか危険な感じがして────


「それじゃあこれも回収っと」


「あっ!三浦先生まっ────」


 バリンッ!


「っつ!…………東京タワーが爆散した?」


「良かった間に合って………いつつつっ……!地味に痛いなこれ……」


 先生がその水晶東京タワーに触った途端、それは爆散して水晶の欠片を撒き散らし、すんでの所で僕が尻尾で引っ張った三浦先生の頭上を通り越し、僕を覆わせていた翼膜へと当たる。


「…………何があったんだ?」


「僕にもさっぱり…………でも余所見しながらずっとぐーって力を流し込んでたから……力込めすぎたとか?」


「かもしれんな…………とりあえず鈴香、助けてくれてありがとうな。だが今日はここで終わりだな、鈴香は怪我がないか見てもらって来てくれ」


 流石に危ない事があったとなると続行は無理だよなぁ……僕の不注意もあるし仕方ない。


「はい、わかりました」


 そうしてちょっと危険な新しい発見と共に、僕の4度目の能力実験は終わったのだった。

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