第97鱗目:キラキラの力?龍娘!

「ねぇ鈴」


「んー?」


 背後のテレビから隆継がやってるゲームの賑やかな音楽が聞こえる中、僕とさーちゃんは楽しく喋りながらキッチンで食材や鍋と向き合っていた。


「前から気になってたんだけど」


「うんー」


 そろそろかな?


「いーよっと」


「あら上手、綺麗に出来たわね」


「うん、なかなかの出来」


 いい感じに焼けてきたオムレツを僕は上手いことひっくり返す事に成功し、横でビーフシチューを作っていたさーちゃんに褒められる。


「さーちゃんの方はどう?」


「こっちはもう完成よ、それじゃあ揚げ物の用意進めるわね」


「ん、唐揚げ用のお肉は冷蔵庫に寝かせてるのあるからおねがーい」


 こっちもあと1つさっさと作っちゃお。あっ、そういや───────


「さーちゃん、さっき何か言いかけてなかった?」


 僕はさーちゃんが何か言いかけてたのを思い出し、器用に片手で卵を割りながら何が聞きたかったのかを聞いてみる。


「おっと、そうだったわ。改めて前から気になってたんだけど、鈴の周りってなんかキラキラしてるわよね。それなんなの?」


 あー、これかー。これねー。


「僕もよく分かってないんだよねー」


「あら……」


 そう、暴走の1件の後から僕の周りにあるこのキラキラ、なんの為にあるのか、そしてこれがなんなのか、未だに僕でもはっきりとは分かっていない。


「あーでも一つだけなら、多分このキラキラのおかげかなーっていうのはあるよ」


「そうなの?一体どんな?」


「えーっとねぇ……」


 あ、ちょうどいい。


「ちょっとさーちゃんオムレツ任せていい?」


「うん、それはいいけど」


 僕はそう言って1歩後ろに下がりさーちゃんと場所を入れ替えると、寝かせていたお肉が入ったボールを尻尾で持ち、さーちゃんの用意した油の入った鍋の前へ立つ。


 温度はもうちょっとかな?


「オムレツ、もうそろそろできるわよ」


「ん、ありがと。こっちもそろそろ温度良さそう」


「それで、そのキラキラのおかげっていうのはなんなの?」


「すぐにわかるよー」


 油に着けたお箸の先から泡がいい感じに出るようになった頃、ちょうオムレツを完成させたさーちゃんに近くまで来てもらう。


「それで結局なんなの?」


 んー……もうちょっと近くにいた方がいいかも?


「さーちゃんちょっとごめんねー」


「えっ何、きゃっ!」


 僕は尻尾をさーちゃんに巻き付けて近くに引き寄せると、すぐにしゅるりと尻尾を解いて今度は尻尾の先でお玉を持つ。

 そして僕はそのお玉に唐揚げ用のお肉をひとつ乗せると、尻尾を天井付近まで伸ばしながらお肉を乗せたお玉を温まった油の上へ持ってくる。


「それじゃあいくよー」


「えっ!鈴!?待ちなさい、それは────」


「投下ー」


 止めようとするさーちゃんを無視し、僕はお玉から油へとお肉を落とす。

 そして高い所から油へと落ちたお肉は180度は越してるであろう油を大量に跳ねさせ、その油は僕らへと……


「………?熱くない?」


「そっ、ほら見て」


「これって………バリア?」


「うん、多分そんな感じ」


 掛かることは無く、僕達に掛かると思われた油は鍋から数センチほどの場所にバリアの様にして幾つも浮かんでいる小さい菱形の模様で止められていた。

 そして暫くするとそのいくつもあった菱形の模様はすっと消え去り、代わりにと言うべきか僕の周りのキラキラはいつもよりほんの少しだけ弱まっていた。


「お湯くらいの温度だと発動しないんだけどね、この間油が跳ねてきた時偶然見つけたんだ」


「そ、そうだったのね………よかったぁ……」


「おっととと、大丈夫?」


「あはは……ありがとう鈴。まぁそれはそれとして……」


 へなへなと倒れかけたさーちゃんを僕は翼と尻尾で支え、ゆっくりと床へ座らせる。

 するとさーちゃんは僕にお礼を言ったあと大きく手を広げ……


「ひゃんっ!さっ!さーちゃん!?んんっ!」


 しっ、尻尾はっ!あっ、お腹の方撫で……っ!


「さぁー……!ちゃんっ…!おなかのっ!んうっ…!方はぁっ……!」


「食べ物をそんな事に使ったらダメでしょー?後で跳ねた油綺麗に掃除しなさいよ?」


「ひゃっ、ひゃい!分かりました!……分かったから、んんっ!尻尾離してー!お腹の方撫でないでー!」


「だ〜め。これはアタシを驚かせたお仕置きよ」


「ひぃうっ!うぅぅ……ごめんなさーい!」


 座り込んだまま尻尾に抱きついてイタズラっぽい表情を浮かべるさーちゃんに、僕は謝りながらもうしないと心の中で誓うのだった。

 そしてそんな僕達を。


「…………何やってるんだあいつらは」


 ゲームをしていた隆継は少しドキドキしながら見ていたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る