第96鱗目:ゲーム!龍娘!

「おーい鈴香ー」


「んー?なーにー隆継ー」


 翼や尻尾を伸ばせる程広くて柔らかいソファーに自重で少し沈み込んでいた僕は、尻尾を持ち上げて先っぽをぴこぴこと振り、隆継にここに居る事を教える。


「テレビ使ってもいいかー?」


「テレビー?」


 んー、特に見たい番組もないし譲ってもいいかな?


「いいよー、その代わりチョコ氷アイス1つ取ってー」


「あいよー」


 隆継がそう言うと返事をすると、リビングの奥から冷凍庫を開ける音が聞こえてきて、それを聞いた僕が両手を上げてアイスを待っていると───


「ぴぅっ!?もー!隆継!」


 してやられた!


 首筋にアイスを当てられて、変な声を出してビクッとしてしまう。


「はっはっはっ!悪かった悪かった。ほらアイス」


「全くもう……あむっ。ん〜♪」


 やっぱりこれ美味し〜♪

 入ってる氷のつぶつぶがシャリシャリしてていいんだよねー、しかも氷のおかげでチョコ系アイスの宿命たる喉の乾きが起きない。


 ココ最近のお気に入りであるアイスをスプーンで食べながら、僕は目の前でテレビの画面を切り替える隆継を眺める。


 そういや隆継がテレビでゲームしてるのは知ってたけど、実際にやってる所は見た事ないなぁ。

 というか隆継がゲームしてる所自体まだ見た事ない。


「ん?どうした鈴香」


「いやー、改めて隆継がゲームしてる所ってまだ見た事ないなぁって」


 基本的に僕は皆の部屋には入らない事もあり、部屋で何をしているか、どんな物を持ってるかはあまり知らない。


「言われてみれば………そうだ、よかったら一緒にやってみるか?」


「いいの?」


「おう、勿論だ!何かやってみたいのとかあるか?」


 そうだなぁ……ゲームに何があるか自体よく知らないけど………あ、そうだ!


「あれ!あれやってみたい!この間CMであってたズバッ!とかズシャァ!とかいって人吹っ飛んでたやつ!えーっと確か超乱闘スマ……スマ?」


「スラッシュペアレンツだからスマじゃなくてスラだな、あれ操作は難しいけど面白いんだよなぁ。んじゃコントローラー取ってくるからちょっと待っててな」


「はーい!」


 この間CMで好評発売中と言ってたゲームを僕が身振り手振りで表すと、隆継はどのゲームか分かってくれたようで、部屋からそのゲームとコントローラーを持ってきてくれた。


「────って感じだ、分かったか?」


「うん!分かった!」


 少し難しそうだけどやってみれば何とかなるでしょ!


「うしっ、ならやるか!コンボとかはまだ分かんないだろうから、やりたいキャラでやりたいようにやるといいぞ」


「よーし!頑張るぞー!」


 やり方と操作を隆継に教えて貰った僕は尻尾でソファーをぽふぽふと叩きつつ、隆継が対戦モードという所を押して画面が切り替わると使うキャラを選び始める。


 沢山あるなぁ……あっ!左上のさっき教えてもらう時に使ったやつだ!これにしようかなぁ、でも右下のも可愛いなぁ。せっかくだしこれにしてみよ。


「おっ、そのキャラ選んだか、じゃあ俺はこいつにしよう。最初暫く手出ししないから、その間にキャラ動かしてモーション確認してみな」


「うん、分かった」


 そう話している内にレディ、ゴーという開始の合図とともにキャラクターが登場すると、僕は隆継に言われた通りキャラを軽く動かしてみる。


「おっ?おぉー……おおぉー!速い!隆継このキャラすっごい足速い!」


 あ、でもすぐ止まる。これならそのまま外に落ちるとかはなさそう。


「それがそのキャラの特徴だな、吹っ飛ばされやすいから気をつけろよ。それじゃあ俺も動くからなー?」


「う、うん!よっ!はっ!」


「お、なかなかやる……なっ!と!」


 吹っ飛んで外にでちゃった!えっとえっと!


「鈴香!ジャンプジャンプ!」


「いーよっと!せーふ!わっ!なんか技出た!」


「うおっと!」


「あっあっあっ!」


 隆継がわざと相性の悪いキャラを使ってくれてるのだろうか、なかなか白熱している勝負に思わず手に力が入る。


「あっぶねぇ!このっ!」


「あっ!隆継酷い!それっ!」


「なかなかやるなって、どうしたどうした!」


「わっ、わかんないっ!なんか勝手に操作が…あぁぁ!」


 自分の操作していたキャラがいきなり右に走り出し、僕はどうしたのかと慌てて手元のコントローラーを見て短く叫び声をあげる。



「ご……ごめん隆継……」


 力込めちゃった……


「あー……いや、うん。仕方ねぇよ、うん」


 僕が力を込めてしまった事で手の形に凹んで壊れてしまったコントローラーを見て、僕と隆継の間になんとも言えない気不味い雰囲気が流れる。


「ま、まぁ!もう後4つコントローラーあるし!別のゲームやるか!」


「う、うん!えっ?4つ!?多っ!」


 ま、まぁとりあえず……これは今日の晩御飯少し豪華にすることで許してもらおう。うん。


 この雰囲気を良くしようと気を使ってくれる隆継を見て、僕は心の中で手を合わせて感謝するのだった。

 その後、パズルゲームで隆継相手に10連勝したのはまた別の話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る