第94鱗目:訓練!龍娘!

「よかったなぁ姫」


「うん!はぁー…………にゃんこう可愛い……」


「そっちなのね……」


 あの後水色のスマホを買って貰った僕は、その後スマホと合わせてケースとストラップを買って貰ったのだが、そのストラップに例のにゃんこうがあったのだ。


「鈴ちゃんそのキャラ本当に好きね……」


「知らぬ間に姫が意外なのにハマってたなぁ……」


「えへへ〜」


「さっ、そろそろ家に着いたぞーっと」


 陣内さんにそう言われ、お店に行った時と同じように僕は後ろを開けてもらい車を降りる。


「それじゃあ鈴ちゃん、私は洗濯物取り入れてくるね」


「うん、お願い。ただいまーっと……ん?」


 これから用事があると帰る陣内さんを僕達は見送ってちー姉ちゃんと僕は玄関前で別れる。

 そして僕が玄関へと入るとそこには綺麗に揃えられた黒革の靴が2足あった。


 黒革の靴……?

 さーちゃんも隆継もそんなの持ってないはずだし……三浦先生でも来てるのかな?


 僕はそう考え、お茶でも出そうかなとリビングへと向かう。

 そして僕がリビングの扉を開けるとそこには三浦先生ともう1人、とても上品な大人の女性が居た。

 そしてその女性を見た僕は────


「あら、気が付かれるなんて。あの時顔は見られてないはずだけど……流石は姫ちゃんと言うべきかしら?」


 開けたままのドアから廊下へと飛び出し、その女性への言い様のない恐怖から警戒心と敵意を全開にしていた。


「ダレ……!」


「さぁ、誰でしょうか」


 あの時……?いや、今はそれよりも…なんでかわかんないけど……この人には気を許しちゃダメな気がする…………!


「金城先輩、鈴香をからかうのはやめてやってください。それと鈴香も、撃たれたんだから警戒するのは分かるがこの人は敵じゃない、だからどうか許してやってくれないか?」


 三浦先生がそういうなら……って。


「撃たれたぁ!?」


 サラッと三浦先生の言葉に紛れ込んでいたとんでもない単語に僕は目を丸くする。


「話してなかったか、ほら前に鈴香1度暴走した事あっただろう?」


「う、うん……」


 その時の記憶は全然ないけど……


「あの時お前を眠らせる為に麻酔銃を打ち込んだのがこの人、日医会の警備の統括でもある金城先輩だ」


「なるほど」


 そうだったのか……僕はてっきりあの男の傭兵か何かかと…………いや撃たれた事には変わりないんだけど。


 警戒の余り翼まで広げていた僕は、とりあえず敵ではないと三浦先生に教えて貰い、翼を畳んでホッと胸を撫で下ろす。


「それで三浦先生、その警備の統括さんがなんでここに?」


「それはだな、この間の誘拐騒ぎで鈴香の馬鹿力が世間にバレた事で今後、鈴香が狙われる事が増えると予想してな」


 それってもしかして……


「もう分かったみたいだな、そうだ鈴香さえ良ければ金城先輩に訓練してもらおうと思ってな。どうだ?」


 三浦先生の言葉を聞いてもしかしてと思った僕に三浦先生は1つ頷くと、僕が予想した通りのことを聞いてきた。

 そしてその言葉を聞いた僕は即答こそしなかったものの、この間の飛行実験で落ちた時、そして誘拐されかけた時のちー姉ちゃんのあの泣きそうな顔が僕の頭をよぎり、きゅっと口を結ぶ。


 うん、いつまでもちー姉ちゃんに心配かけたくない……その為には自分の身は自分で守れなきゃ……


 そして僕はちー姉ちゃんの為ならばと、真剣な顔で金城と呼ばれた人を見る。


「お願いします。僕を鍛えてください!」


 僕はそう言うと深く、とても深く頭を下げた。

 僕の大切な人の笑顔を守るために。


 ーーーーーーーーーーー


「ここまでよ、10分休憩を挟んでまた再開するからね」


「はい」


 休憩を言い渡された僕は息こそ乱れて無いものの、目元をグシグシと強く擦りながらよろよろと立ち上がり、三浦先生が居る休憩スペースへと歩いていく。


「お疲れ鈴香、どうだ?」


「やばいです、泣きそうです」


 なにあの人、真正面から翼掴まれたと思ったらそのまま後ろに投げ飛ばされたんだけど。

 手も足も出なかったんだけど。

 というかあの人本当に人間?


「あの人あぁ見えて馬鹿力だからなぁ」


 馬鹿力ぁ?そんなレベルで済むの?あれ?


 三浦先生に渡されたタオルで顔を拭きながら、微塵も気力の残ってない僕は、椅子に座って翼や尻尾をだらーんと垂らしていた。

 それくらい手痛く殴られ蹴られと金城さんに僕は一方的にやられていたのだった。


 正直、泣きそう。でも……


「やっぱりこっちにも驚きですよ。なんですかここ、家の下にこんな場所あるなんて知りませんでしたよ」


「そりゃ話してなかったからなぁ、シェルターとかそんな感じのイメージで作った場所だし」


 僕は三浦先生にそう言うと目の前に広がるだだっ広い真っ白い部屋、三浦先生が言う通りならシェルターを眺める。

 僕が頭を下げた後、それを許可した金城さんはいい場所はないかと三浦先生に聞くと、三浦先生は座敷へと僕達を連れていき畳を1枚捲った。

 するとそこにはハッチのようなものがあり、そこを進むとこんな場所があったという訳だ。


「それでどうだ?1発入れられそうか?」


「入れるどころか触る事すらできる気がしません」


「はっはっは!まぁそうだろうなぁ」


 そうだろうなぁって……


 僕はここに連れてこられた後基本的な心構えと動き方を金城さんに教えられたのだが「この子、面白いわね」と金城さんが呟いたかと思うと、いきなり「今から模擬戦ね」と言ってきたのだ。

 ちなみに僕の勝利条件はただ1つ、金城さんに少しでも触れれる事だ。


「三浦先生何か作戦とか見てて気になったこととかないですか?」


「そうだなぁ、強いて言うならリーチが足りてないな」


「リーチですか」


「だな、腕の長さが足りずに逃げられたり避けられたりされてるな。後もうひとつ言うなら……」


「言うなら?」


「もっと思いっきり殴りかかれ、相手は金城先輩だ、戦闘に関してはプロ中のプロ。腰が引けてるようじゃ当たるのも当たらん、それに鈴香の1発くらいじゃあの人は大怪我はしても死にはしないさ」


「それはいいんでしょうか……」


 三浦先生がニヤっと悪い笑みを浮かべながらそういうのを見て、僕はアハハと困ったように笑いながらそう返す。


「金城先輩も「腕1本くらいくれてやるわよ」って言ってたから安心しろ」


 腕1本って…………でもリーチか……それなら。


「ちょっと勝ち筋が見えたかもしれません」


「お、それは良かった。さぁ休憩も終わりみたいだ、頑張ってこいよ!」


「はいっ!」


 今度こそ1発くらい!


 僕は元気よく三浦先生にそう元気よく返事をすると、部屋の真ん中に立つ金城さんの元へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る