第90鱗目:買い物帰り、龍娘
「それじゃあ鈴ちゃん荷物よろしくね」
「ん、任された」
「ちゃんと守るんよすずやん!大事な大事なぬい─────」
「ふしゃー!」
「きゃー!すずやんが怒った〜!」
全くもう……とらちゃんは本当に1度お仕置きした方がいいかもしれない。
小物店での買い物を終えた僕達はその後、裁縫店や調理道具のお店、本屋さんなんかを回って過ごし、もうそろそろ3時になるということで雅紀さんが迎えに来るという場所に来ていた。
今日は暑かったもんねぇ、そりゃああれだけ飲み物飲んでたらトイレにも行きたくなるか。
トイレへと向かった2人の後ろ姿が道の向こうへと消えるのを見送り、僕は人通りの少ない路地で改めて2人が置いていった荷物の方へと目をやる。
僕が4、さーちゃんが2、とらちゃんが4って所かな?少し買いすぎたってのもあるけど……にゃんこうが大きかったか。
僕の荷物の半分を占拠してるであろうにゃんこうの入った袋を見て苦笑いを浮かべ、ペットボトルから1口飲み物を飲むと今日の出来事を思い出してクスリと笑う。
「楽しかったなぁ……次はさーちゃん達とどこに行こうかなぁ……海とか行った事ないし、行ってみたいなぁ」
僕がそう呟き道路脇にある石に腰掛けてパタパタと足を動かしながら鼻歌を歌っていると、前から走ってきた黒塗りの車が僕の横に止まる。
真っ黒だなぁ……絶対これ暑くなるでしょ……ととっ、ここにいたら邪魔になっちゃう。
僕がそう思い、車の横から荷物を持って退こうと背を向けると、いきなりその車のドアが開けられ僕はその車から伸びてきた手に体のあちこちを掴まれる。
「なっなにっ!?」
「うおっ!?重ェ!」
「何キロあるんだよ!」
「失礼な!」
思ったより遥かに僕が重たかったのか、後ろから驚いた様子の男の声が聞こえてきて、それに僕は反射的にツッコんでしまう。
しかしそれがきっかけで突然の出来事に固まっていた僕は、自分が今どんな状態かをようやく理解する。
「離してっ!」
「このっ!逃げんなっ!」
「痛っ!」
僕は翼を広げて大きく動かす事で強引に男の手を振りほどき、すぐさま車から距離を取ろうとするが、今度は男に髪を掴まれてしまう。
「痛い!離せっ!」
「いっづ!?」
髪の毛を掴んでいる手を振り払おうと僕は尻尾や翼を更に大きく動かし、それが功を奏したのか男は手を離した。
そして流石にこの騒ぎを聞きつけたのか、人が何人かこちらへ駆けつけて来るのが視界の端に見えた。
「クソッ!人が来た!逃げんぞ!」
「あぁ!」
「あっこらっ!逃げんな!」
男も人が来ているのを見たのか逃げようと車へ戻り出す。
そしてスタコラサッサと車を発進させて逃げようとする男達を見て、気が立っていた僕は……
ーーーーーーーーーー
「なんだか騒がしいわね」
「なんかあったんかな?」
トイレから出てきた2人は入る前と違ってなんだかガヤガヤとなんだか騒がしくなっている事に、そして……
「……というかあの場所って鈴待たせてた場所じゃない?」
その騒がしさの中心が鈴香を待たせている場所だと気がつく。
「…………行こう!」
「ええ!」
その事に気がついた2人は走ってその場所へと向かい、騒がしい人の山をかき分けて鈴香を待たせていた場所へと顔を出すとそこには─────
「ぜっっったい逃がさないからなぁぁぁぁあ!!」
藻掻くように高速でタイヤを空回りさせている黒塗りの車の後ろを両手で掴み、そう叫びながら尻尾を木に巻き付けて足を踏ん張っている鈴香がいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます