第89鱗目:小物店!龍娘!
うおぉぉぉ…………すっっごい商品の種類………商店街のあの雑貨屋さんよりも種類あるんじゃないの?
所狭しと棚に並べられた色とりどりで多種多様な商品の山に僕は圧倒され、お昼時で少し人が少なくなったモール内にある小物店の前で固まっていた。
「すずやんすずやん!はよおいでーや!」
「あっ!うん!分かった!」
いけないいけない、圧倒されてた。
とらちゃんに呼ばれ、僕はふるふると顔を振ると商品をなぎ払ったりしないよう、尻尾の先しゅるりと足に巻き付けて店内へと入る。
えーっとあれはボールペンであっちはコースターかな?あ、なんか可愛いストラップもある。
んであっちは人形コーナーかな?
小物って言うけどなんでもありというか……なんでもあるなぁ…………
「鈴、ちょっとおいで」
棚同士の間が狭い所には入らないよう気をつけながら僕が店内をキョロキョロと見ていると、さーちゃんにちょいちょいと手招きをされる。
「さーちゃんどうかしたー?」
「ちょっとだけでいいから目を瞑ってくれない?」
「…?分かったー」
なにかするのかな?
さーちゃんに言われた通り僕は鏡の前で目を瞑り、暫くそのまま待っていると目を開けていいと言われ、僕がゆっくりと目を開けると。
「おぉ……」
「どう?」
これは………なかなか……うん、悪くない。
鏡に映っていた僕の髪は水色のリボンのような髪留めで横に1つ結びしてあり、自分で悪くないという程なかなかにいい感じになっていた。
さーちゃんに髪型を弄って貰った僕は、鏡を見ながら顔を右に左にと振って新しい髪型をじっくり見てひとつ頷く。
「さーちゃんこれ気に入った!」
「ふふっ、それは良かったわ」
これなら髪の毛下ろしてるよりも女の人っぽくない気がするし、それになんかいい感じだし!
気に入った理由が少しズレてる気もするが、それは気にしてはいけない。
「あっ!すずやんがなんか可愛くなっとる!」
「どう?さーちゃんがやってくれたんだけど」
「さなっちにサイドテールにしてもらったんか!ええでええで!すっごい似合っとるで!髪の毛下ろしてる時とは違って可愛いで!」
隣の棚からひょこっと出てきたとらちゃんに僕がそう言って結んで貰った所を見せると、とらちゃんは僕にグッと親指を立ててそう言ってくる。
そして僕はいつもなら可愛いと言われても微妙な気持ちになるだけだったが、この時は不思議と素直に嬉しいと感じた。
しかしそれもつかの間。
「なら次はウチの番やね!」
「へ?」
とっ、とらちゃん?いつの間に横に!?というかその手に持ってるのは何!?
「ポニーテールはすずやんが自分でようやっとるしここはツインテールとか……うん、すずやん覚悟っ!」
「ひゃあぁぁぁぁ!?」
いつの間にか横に移動していたとらちゃんに僕は髪の毛を弄られまくられたのだった。
ーーーーーーーーーーー
全く、とらちゃんが暴走するせいで落ち着いて商品を見ることも出来ないよ。今度1回くらいお仕置きでもした方がいいかもしれない。
はぁとため息を着きながら結局元の髪型に戻した僕は、翼や尻尾が当たらないように気をつけながらお店の中を見て回る。
ちなみにとらちゃんはさーちゃんにいい加減しなさいと怒られている所だ。
それにしてもやっぱり色々あるなぁ…………あ、これなんかとらちゃん好きそう、こっちはさーちゃんが好きそうだ。
隆継が好きそうなのはー……無いな、うん。ターゲットは女の人なんだし、そら男の隆継が好きそうなのは無いか。
そんな事を考えながらお店の中を眺めながら歩いてた僕は、いつの間にか最初にちょこっと見かけたぬいぐるみコーナーへと来ていた。
「ぬいぐるみってこんなにあるんだなぁ…………あれってもしかしてヒトデ?……どんなものでもあるなぁ…………ん?」
普通に可愛いぬいぐるみの中に絶対に売れないだろというデザインのぬいぐるみがある、そんなぬいぐるみコーナーを眺めていた僕はふと端にある1つのぬいぐるみに目が釘漬けになる。
そのぬいぐるみはデフォルメされた猫の顔のあるお饅頭の様な丸くて真っ白い胴体に、猫の耳と魚の鰭やあんこうみたいな提灯があるなんとも言えないデザインで……
「すずやーん、なんか気に入るもん……」
「んんぅ……ふへへ…ふかふか………あっ……」
さーちゃんのお説教が終わったのか様子を見に来たであろうとらちゃんに、僕は幸せそうな顔でそのぬいぐるみに抱き着いて頬ずりしている所を見られてしまう。
「やっぱりすずやんそういうのが好きなんやなぁ」
「あっ、いやっ!ちがっ!これはっ!」
ニヤニヤァっとした顔になりながらとらちゃんがそう言ってきて、僕は見られた恥ずかしさで瞬く間にボッと顔を赤くしてしまう。
そして僕はなんとか反論しようとするが恥ずかしいのと混乱してたのが合わさり、ワタワタしてしまうだけで言葉が出なかった。
「恥ずかしがらなくて大丈夫やですずやん、見た目相応で可愛ええよ!それじゃあウチとさなっちは店の外で待っとくで!」
「あっ!まっ……ってもう行っちゃた……」
そう言うとらちゃんへ僕は手を伸ばすものの、とらちゃんは一足先に棚の向こうへ行ってしまった。
僕は1つため息を着きながら肩を落とし、その持っていたぬいぐるみを置いて自分も店を出ようとする。
「はぁ……全く………ぬいぐるみを可愛いなんて……女の子じゃあるまいし────────」
ピッ
「ありがとうございましたー」
………………買ってしまった。
なんならさーちゃんに髪型弄られた時の髪留めも一緒に買ってしまった……………………………うぅぅぅ!
笑えば笑え!
僕の男としてのプライドは欲望に負けたのだ!
せめてもの抵抗で袋に入れてもらった「にゃんこう」とタグに書かれていた僕が抱きしめてたぬいぐるみを持ち、僕は店の外へ出たのだった。
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