第80鱗目:羽ばたき!龍娘!
大丈夫、前は1発で行けたんだ、だから大丈夫、怖がる必要はない。
飛ぶぞと言わんばかりにバサリバサリと土煙を上げて翼を羽ばたかせていた僕は、飛ぶぞという強い意志とは裏腹に、緊張と不安でとてもドキドキしていた。
ちゃんと翼に集中して、出来るだけ早く、そして大きく動かして…………いけっ!
少しぎこちないが前に飛んだ時のように大きく早く翼を僕は動かして、何となく行けそうな感じがした所で思いっきり地面を蹴る。
すると空中に飛び上がるような感覚を感じ、そのまま地面から数メートル飛び上がった所で僕はピタッと一瞬空中で止まり、続いて地面へ向かって落ち始める。
なっ、なんで!?どうして!?
「うぐっ!!うおぉぉぁぁぁぁぁ…………」
「鈴ちゃん大丈夫!?」
必死に翼を羽ばたかせたがそれも虚しく、重力に引かれて背中から地面に落ちた僕は、体を翼や尻尾と一緒に丸めて悶絶していたのだった。
ーーーーーーーーーー
「落ち着いた?」
「うん…………」
やっちゃったなぁ…………はぁ………
僕はちびりちびりと両手で持ったコップから水を飲みながら、尻尾や翼、耳までしゅんと元気なく垂らしてやらかしてしまったと落ち込んでいた。
前は行けたのに…………どうして失敗したんだろ……いや、失敗した原因はあれだ…………少し…いや、思ってたよりも怖がってたからだ。
そう、まだ二回目、それも初めての外での飛行ということで、僕は自分で思っていたよりも遥かに怖がっていた。
外だったもん…………飛べるかどうかわからなかったもん……
何かに言い訳をしながら、僕はコップに付けた口から水に息を吹き込みぷくぷくと泡を出していると、いきなりぽんと頭に手を置かれる。
「んむ…………ちー姉…ちゃん?」
「鈴ちゃん、こっち向いてご覧」
「…なぁに?んむっ」
ちー姉ちゃんにそう言われ、僕はズリズリと尻尾と翼を引きずりながらちー姉ちゃんの方を振り向く。
するとちー姉ちゃんはぎゅぅぅっと強く僕の頭を胸に抱き寄せてきた。
ふぇ?あっ、えっ?ええっ!?なっ、なに!?
「ち、ちー姉ちゃん!?」
僕はちー姉ちゃんにいきなり抱きしめられ、突如顔を覆ってきた柔らかい感触に尻尾や翼をピンと立てて驚く。
そんな僕をちー姉ちゃんは更に強く抱きしめ、頭を撫でながら一言。
「大丈夫」
「!」
「怖かったよね、まだ1回しかやったこと無かったのにいきなり外なんて。怖かったよね」
ちー姉ちゃんに大丈夫と言われビクッとした僕は続くちー姉ちゃんの言葉を聞き、思わずきゅっと白衣の裾を掴む。
「でもね、鈴ちゃんには私……ううん、私達皆がついてるから………何があっても絶対…絶対私達が守るから……」
「…………うん……ありがとうちー姉ちゃん…」
僕の心にあった怖いという気持ちはちー姉ちゃんの守るという想いを受け、ちー姉ちゃんの想いに応えたいという想いへと変わっていった。
…ありがとうちー姉ちゃん、本当にありがとう…僕も………僕もその想いに……
「………ねぇちー姉ちゃん?」
「なに?」
「流石に抱きつくの長くない!?恥ずかしいよ!」
「えー?せっかくだしもうちょっとー。鈴ちゃんいつも抱きつかせてくれないじゃんかー」
「いーやーだー!恥ずかしい!」
何とか元気になった僕がまだ抱きついたまま離れようとしないちー姉ちゃんに抵抗していると、そこに慌てた様子の三浦先生が戻ってきた。
「鈴香!精密検査の用意が出来たから早く……って何やってんだお前ら……」
「あっ三浦先生!助けて!ちー姉ちゃんが離れてくれない!」
「あ〜ん、鈴ちゃんもうちょっとだけ〜」
僕の心配をして慌てていた三浦先生はガクッと肩を落とすと、まだ離れないちー姉ちゃんへゲンコツを1発落としてその動きを止めた。
「ありがとうございます三浦先生」
「なんだか心配していたのが馬鹿みたいだな……まぁ元気になったようでなによりだ」
三浦先生はそう言うと安心したような笑顔で僕の頭に手を置いてくる。
「はい、ご心配お掛けしました。それで三浦先生……」
「…………やるんだな?」
僕の目を見た三浦先生は浮かべていた笑顔が嘘のように消え、真剣な面持ちで僕にそう問いかける。
僕はその鋭い目を真正面から見つめ返して……
「はい、お願いします」
そう返事を返した。
ーーーーーーーーーー
『それじゃあ鈴香、スタートだ』
「はいっ!」
通信機から三浦先生の開始の合図を聞いた僕は元気よく返事を返すと、バサリと翼を限界まで拡げ、最初はゆっくりと、そして段々速く翼を羽ばたかせる。
もっと大きく…もっと速く……大丈夫…………今度こそ行ける……!僕は必ずちー姉ちゃんの想いに報いるんだ……!
バサリバサリと大きく翼が動く度に土煙が巻き上がる中、僕は翼の動きに意識を集中しながら少しの不安を塗り消すように今度こそ行けると強くイメージする。
そんな僕の想いに応えるかのように翼はより一層、強く羽ばたき、それで生まれた風が地面を叩いて土煙を吹き飛ばす。
今なら……行ける!!
フッと視界が切り替わるような感覚が来て、大きく羽ばたいていた翼の動きが上に上がった時ほんの一瞬だけ止まり。
ここっ!!!!
僕が地面を蹴ったタイミングで大きく翼が1度羽ばたいた、そしてそのまま僕は前に飛んだ時と同じ打ち上がるような感覚を感じ──────
「飛べ………………ました!」
僕は空へと飛ぶことが出来たのだった。
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