第78鱗目:虫取り!龍娘!

「だからこれはだな、ちょっと外に出てくるだけで別に…」


「外に出るだけってこんな朝早くから一体なにを………ん?確か去年も…あんた高校生にもなってまだ……」


「いいだろ別に、好きなんだからさ!」


「んんぅ……二人共どしたの…………こんな…ふぁぁぁ……朝っぱらから………」


 まだ日もでてない朝の4時、お水を飲んだ帰りに玄関でそんなやり取りをしているさーちゃんと隆継を見た僕は、眠い目を擦りながら何かあったのかと声をかける。


「あっ鈴、聞いてくれない?」


「なぁーにぃー……」


 聞くのはいいけど……眠い…………


「こいつこの歳にもなってまだ虫取りしようとしてるのよ」


 そう呆れたように言うさーちゃんに、隆継はジトっとした目を向けてムスッとしたようなトーンで反論をする。


「虫取りで違わなくはないけど、俺が取るのはカブトとクワガタだ」


「だからそれが子供っぽいって、ねぇ鈴?…………鈴?」


 呆れた様子のさーちゃんが同意を求めるように僕の方を振り向いてくる、しかし僕は……


「かぶと……くわがた……!」


 カブトやクワガタを取ると聞いて目をキラキラさせていた。


「取れる?クワガタ取れるの!?」


「おう!この山ならきっとカゴいっぱい取れるぞ!」


「おぉぉぉ!!」


 凄い!そんなに取れるのか!

 今までカブトムシとかクワガタって図鑑でしか見たことなくて憧れてたんだよー!


「鈴香も一緒にくるか?」


「いいの!?」


「もちろんだ!」


「いやったぁ!」


 さっきまでの眠気はどこへ行ったのか、隆継に一緒に行くかと誘われた僕は、テンション高く尻尾をブンブンと振っていた。

 そしてそんな風に盛り上がる僕らを見ていたさーちゃんは……


 これはダメね、もう止められないわ。


 とでも言うように額に手を当てて首を振るのだった。


 ーーーーーーーーーー


「それじゃあいってきまーす」


「はいはい、楽しんでらっしゃいねー」


 青い長袖のTシャツに濃い緑の半ズボン、そしてニーソックスに運動靴という服装の僕は1つ結びにした髪の毛を揺らしてさーちゃんへと手を振り、隆継の後に続いて山へと入る。


「本当にクワガタ取れる?」


「あぁ、まだこんなに暗い時間だからな。仕掛けもあるしきっとわんさか取れるぞ」


 荷物届いたのって一昨日なのに、仕掛けなんていつの間に作ってたんだろう……


 隆継とそんな話をしながら懐中電灯の灯りを頼りに暫く山の中を進んでいると、辺りに甘ったるい匂いが立ち込めていることに僕は気がつく。


「もしかしてこの匂い?これが仕掛け?」


「もうわかんのか?ふむ、思ったよりも近くまで来てたか…………」


 すんすんと鼻を鳴らして甘ったるい匂いを嗅いだ僕は、思ったよりも強力だったその匂いにうえぇっとなりながらも匂いの元を見つけようとキョロキョロと辺りを見回す。


「なかなかきつい匂いだねぇ…………甘ったるーい………」


「この匂いにカブトとかが釣られてくるのさ、えーっと……たしかここら辺に仕掛け1号が…………」


「あれじゃない?」


「見つけたのか?どれだ?」


「あれだよあれ、あの木にぶら下がってる白いヤツ、それが仕掛けなんじゃないの?」


 僕と同じ陽気キョロキョロと仕掛けを探していた隆継の横で、僕は見つけていたそれらしき物を指さし、隆継の手を引っ張って仕掛けの元へ連れていく。


「おぉ、本当にあった、こんな真っ暗なのによく見えたな…………って聞いちゃいねぇか」


 いっぱい……!カブトにクワガタがいっぱいいる……!すごい……!!!


 仕掛けに沢山集まっていたカブトムシやクワガタを見て、僕は興奮の余り甘ったるい匂いも忘れ、色んな角度から仕掛けに集まっているカブトムシやクワガタを見ていた。


「鈴香、カブトムシとかクワガタは他の虫と比べたらそこまで飛ばない虫だから、ぱっと素早く抑え込んでやれば手掴みで取れるぞ」


「本当!?よーし、やるぞー…………」


 そーっと、そーっと近づいて…………今っ!


 隆継に言われた通り僕は素早く手を伸ばし、仕掛けに引っ付いてる中でもとびきり大きなクワガタを抑え込む。


「お、いいな。なら次はそーっと足がもげないように仕掛けから離すんだ」


「わかった!」


 よしっ!次はそーっと、そーっと、慎重に…………


 そしてそのまま慎重に、隆継に言われたよう足がもげないよう、そして馬鹿力で潰さないように気をつけて抑え込んだクワガタをそーっと仕掛けから引き離す。


「取れた!」


「やったな!ってうおぉ!?」


「どうしたの?」


 僕が隆継の方に振り向いてクワガタを見せると、隆継は驚いたように後ろへと1歩後ずさる。


 1歩後ろに下がるくらい驚くなんて、なんか凄いクワガタだったのかな?


「鈴香、お前目が光ってるぞ!」


「えー?うっそだぁ」


 呑気にクワガタの事を考えながら僕は隆継にいきなり目が光ってると言われ、ないないと言うように手を振りながら笑いつつそう返事を返す。


「鏡とか……ないもんな、鈴香お前家帰ったら暗い所で鏡見てみろ、絶対目が光ってるから」


「はいはい、わかったよ隆継ぅー。それよりほら、次の仕掛け行こっ!」


 目が光ってるとかよりも僕は沢山カブトとクワガタを捕まえたいのだ!


「わーったよ、次はあの獣道をあがった先だ」


「よーし、れっつごー!」


 僕はハイテンションで隆継と共に残りの仕掛けへと向かったのだった。

 ちなみに後で家に帰って確認した所、本当に目が光っていて驚いたのはまた別の話。


 ーーーーーーーーーー


 大漁〜♪たいりょーう♪


「ただいまー!」


「あら鈴ちゃんおかえりなさい、丁度いいタイミングで帰ってきたね」


「ただいま!ちー姉ちゃんみてみて!クワガタいっぱい捕まえた!」


 あの後仕掛けを3つ程巡り、沢山のクワガタとカブトを捕まえて日が昇り始めた頃に帰ってきた僕は、ちょうど玄関に居たちー姉ちゃんにクワガタの入ったカゴを見せる。

 ちなみに隆継はというと庭にある小さい林の1部に、カブトとクワガタを放し飼いできる所を作ってくるとのことだ。


「おお、にーしーろーやー……本当に沢山捕まえたねぇ。凄い凄い♪」


「えへへ♪それでちー姉ちゃん、なんかちょうどいい所にとか言ってなかった?」


「おっといけない、そうだったそうだった」


 よしよしと僕の頭をなでてくれるちー姉ちゃんに僕は丁度いいと言っていた事を聞いてみると、ちー姉ちゃんは忘れるところだったと言うように頷き、こほんと咳払いをして。


「鈴ちゃん、久しぶりのお仕事よ」


 一言、笑顔でそういったのだった。

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