第74鱗目:寄り道!龍娘!

「へい、チョコ2つに抹茶2つ、それといちごお待ち!」


 おぉー!この下にある黒いのがタピオカか!思ってたより大きい!


「お嬢ちゃん2人だけで持てるかい?」


「はい大丈夫です。鈴、お願いね」


「うん!任せて!」


 さーちゃんに言われ僕は元気よく返事をすると両手でチョコ味の奴を持ち、いちご味の奴を尻尾の先を巻き付けて持ち上げる。


「えーっと千……五百円っと……」


「あー……お代だが黒髪のお嬢ちゃん。そっちのお嬢ちゃん、龍娘さんがいいのなら屋台の前で写真撮らせて貰えねぇかな?お代はそれでいいからさ」


 屋台の少しごついおじさんが緊張した面持ちで「嬢ちゃんいいかい?」とさーちゃんだけでなく、写真を撮られる本人の僕にも聞いてくる。

 僕がさーちゃんの方を向くと「どうする?鈴」と僕に任せるような感じでさーちゃんは見てくる。僕は少し悩んでから、思っていた事を正直に言う。


「悪用とかしないのなら別にいいけど……」


「ありがてぇ!絶対悪用しないって約束するからよ!」


「ちなみに何かに使う気なんですか?」


「一応今話題の龍娘が来た店って感じで宣伝させてもらおうと、それと……」


「「それと?」」


 僕に変わって間髪入れずにさーちゃんがおじさんに使用用途を聞くと、おじさんは正直に答えた後照れながら少し黙って。


「有名人と会えたから記念に1枚一緒に映りたくて……」


 このおじさん…………純粋だ……!そしてなんか可愛い……!


 そんな照れ照れしてるおじさんを見て大丈夫そうと判断した僕は、さーちゃんにおじさんとのツーショットを撮ってもらった。

 頭を何度も下げてお礼を言ってくるおじさんにこちらこそとお礼を言い、僕達はとらちゃん達が取っててくれたベンチへと向かう。


「……尻尾で持ってるのか…器用だな」


「そうかな?とりあえず皆お待たせさまー、はい、とらちゃんと隆継はチョコ味ー」


「すずやんありがとなー」


「サンキュー鈴香」


「はい、アタシと玄さんの分の抹茶」


「助かるよ」


 3人にそれぞれ注文していた味のカップを僕とさーちゃんは渡して、みんなと一緒のベンチへ座る。

 その時ふとお店の横にあったテーブル席辺りに居る僕やさーちゃんと同じ制服を着た女子が何かしているのが目に入る。


 何してるんだろう?


「みてみてー、乗っかったよー!」


「めっちゃ胸張って無理やりやってんじゃん!チコちゃんマジウケる!」


「うっさいなぁ!」


 じっと僕がその女子達を見ていると片方の女子が、友達と思われるもう1人の女子に胸の上にタピオカを乗っけてるのを見せてた。


 おぉ、なんちゅー素敵……いやハレンチな…………僕も出来たり……いやうん、僕のこの大平原では無理か……………あ、そうだ。


「本当にあんな事してる子が居るのね……」


「いやー、まさかリアルでチャレンジを見ることができるとは……眼福眼福」


「隆継?」


「な、なんでもねぇよサナ!なぁ鈴香!鈴香?」


 鼻の下を伸ばしていた隆継はさーちゃんに含みのある笑みを向けられ同意を求めるように僕の名前を呼ぶ、しかし全く反応を返さない僕に隆継は首をかしげながら僕の方を見てくる。

 そして隆継が見てきた時、僕は制服の中に尻尾の先を入れて「出来たー」とさっきの女子達の真似をしていて、隆継に見られた事に気がついて顔を真っ赤にする。


「なっ、なに隆継!?」


「大丈夫だぜ鈴香、お前まだこれからなんだから」


「なっ!?ちがっ、そんなんじゃ!あっ……うぅぅぅ………………」


 僕は恥ずかしさでさらに真っ赤になって反論しようとするが、とらちゃんや隆継、更にはさーちゃんとむーくんまでニヤニヤしているのを見てこれ以上騒いだらからかわれると察して俯くのだった。


 ーーーーーーーーーー


 さ、さて、気を取り直して!これ見た感じはやっぱりただ少し大きめの黒いつぶつぶだけど……どんな味なんだろ。

 でもまぁとりあえず、何事も挑戦!


 しばらくとらちゃんやさーちゃんに頭を撫でられてたが何とか復活した僕は、まじまじと両手で持っているカップの中を見て期待半分不安半分であむっとストローを咥え、ちうちうといちごミルクと一緒にタピオカを吸い上げる。

 吸い上げたタピオカをんぐんぐと味わうように顎を動かしていると…………


「んんー!」


 僕はパタパタと足と翼を動かしながら目を輝かせて、もう一口と飲み始める。


 なにこれおもしろーい!むにむにしてるー!いやぐにぐに?でもこれ不思議な食感で面白い!

 味もほんのり気持ち甘い程度だからいちごミルクには介入してこないし……これはいい!


 そんな風に夢中になってタピオカを楽しんだ僕はあっという間に飲み終わり、ぷはっとストローから口を離す。


「夢中になって飲んでたわね」


「えへへ……思ったより美味しくて」


「小さい口で一生懸命吸ってて可愛かったでー、よかったらウチのも飲む?」


「いいの!?あっ、いや、思ったよりお腹いっぱいだしやっぱりいい……かな!」


 危うくとらちゃんからタピオカを貰いかけ、僕は慌てて顔をブンブンと振って要らないと伝える。僕が断ってとらちゃんは少し悲しそうな顔になったが……


 間接キスはいくら何でもダメだからね!うん!だからさーちゃん「関節キスって気がついて断ったわね」みたいな目で見てこないでお願い。


 間接キスに気がついた僕は平常心平常心とそう考えながら自分に言い聞かせていたのだった。

 その後皆がタピオカを飲み終わる頃にはなんだか人が増えてきて、僕達は身動きが取れるうちにその場で解散した。


 今日は初めて寄り道したなぁ〜♪

 それにあと少しで夏休み!んー!楽しみ!


 翼や尻尾を大きく動かしたりしながら、僕はあと2日で来る夏休みに心を躍らせて夕暮れの道を家へと向かって歩いていくのだった。

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