第66鱗目:平和な日、龍娘!

「んむぅ…………んん……」


 カーテンの隙間から差し込んでくる陽の光が眩しくて、僕は抱きついているそれにきゅっと少しだけ強く抱きつく。


 眩しい………もうちょっと…………柔らかいのを……もちもちでむにむにで……………もちむに?


 抱きついている物の不思議な触り心地で目の覚めた僕はもちむにから離れて眠い目を開けると、そのもちむにの正体はちー姉ちゃんの腕だった。


 なぁーんだちー姉ちゃんの腕だったのか……………………………良かったぁぁぁぁぁ……あー本当に良かった、腕折ったりしてないみたいでほんっっとうに良かったぁぁ……


 そんなサーッと血の気の引くような思いをしたせいで、残っていた眠気も吹っ飛んだ僕は女の子座りになってしまいながらも胸を撫で下ろす。


 いくら寝てる時は馬鹿力になってない、というか力が人並みくらいだって分かってるとはいえ…本当にヒヤッとしたぁ…………あー心臓に悪い。


 そんな事を思いつつモゾモゾと起き上がった僕は、翼の拘束具をパチリと外して角カバーのぽんぽんを揺らしながら廊下を歩く。

 その廊下は昨日までの聞くに耐えないような音、そして光などが全くない元の静かな廊下だった。


 あの後、1度目の覚めた僕は三浦先生が記者や各報道機関に手を打ってくれた事を、陣内さんから教えて貰った。

 何をしたかを簡単に言ってしまうと、デカデカと「私は不法侵入及び、住人を盗撮しました」と書かれた正式な書類に、僕がとっ捕まえた人達全員サインさせたらしい。

 そしてそれを使ってその人達の所属する会社なんかに、どうしてくれるのかといちゃもん、もとい正当な理由で裁判沙汰にまで持っていこうとしていると聞いた。

 ちなみにそこまでやらなくてもと陣内さんが言った所、三浦先生曰く「徹底的に大体的に公式な謝罪が行われるレベルまで追い詰めないとダメ」と返されたそうだ。


 まごまごたまご~、朝はやっぱり目玉焼き~


 リビングについた僕は朝ご飯を作り終えると、いつも通りちー姉ちゃんを起こす為に部屋へ行こうとする。

 しかし僕は昨日のこともあって疲れてると思い、ゆっくり寝かせておこうと先に朝ごはんを食べる事にした。

 ぷつりと半熟の黄身に穴を開けて上から醤油をかけ、僕は1口食べた後麦茶を飲みながらテレビを付ける。

 しかしどの局を見ても三浦先生の手回しが早かったからか、謝罪会見を開くやらなんやらと言っているものばかりで、面白いものはなかった。


 せっかくテレビ貰ったのに……あーあ、なにか面白いものでもあってないかなー。


 つまらなさそうにジトーっとした目をテレビに向けつつ、僕はさらにピッと番組を変える。


『───紅き星!レッドスター!!』


『夜空に瞬く蒼き星!ブルースター!!』


『『2人合わせて正義の戦士!スターライト!』』


 おー、これがアニメって奴か…………ふむ………………


 その後僕は朝ご飯をパクパクと食べながら、その女の子2人がヒラヒラの可愛い服に変身して化け物と肉弾戦で戦うアニメを見ていた。


ーーーーーーーーー


 ガゴリボゴリガリゴリガリゴリゴクン


 うーむ、今日のは甘さ控えめの少し酸っぱい感じだったか。僕の好みとしては微妙だけど夏にはちょうどいいかもしれない。


 朝食後、こくこくと両手で持ったコップから水を飲んで水晶を食べた後の口の中をすっきりさせつつ、僕はそんな事を考える。

 コトッとコップを置いた僕は椅子から立ち上がり、少しウロウロとしてキョロキョロと辺りを見回し、パッパと服の裾をはたいて…………


「夜空に瞬く蒼き星!ブルースター!!」


 …………………………うむ、決まった!


 ビシッ!と先程のアニメに出ていたブルースターというキャラの変身シーンを真似した僕は決まったと言った顔で決めポーズを取っていた。


 いやいやいやいや、決まったじゃないよ。何やってんだ僕は。とりあえず、うん、とりあえずさっさとお皿でも洗っちゃおう、うん。


 はははと目を閉じて首を振りながらリビングにあるキッチンに行こうと僕が後ろを振り向くと、そこにはニヤニヤとした顔のちー姉ちゃん立っていた。


 ーーーーーーーーーーー


「鈴ちゃんーもう弄らないからー」


 ちー姉ちゃんにそう言われている僕は今、頬をリンゴのように膨らませ、掛け布団を頭から被って部屋の隅で丸まっていた。


 ちー姉ちゃんなんてしらないっ!あんなに弄ったりしてこなくてもいいじゃんかぁ!


 あの後、僕はちー姉ちゃんに散々可愛い可愛い言われながら「もっかいやって」なんて言われ、拗ねてるような今の状態へとなっていた。


「鈴ちゃんお願いー!なんでも買ってあげるからー!」


 ん?今何でもって?それなら…………


「ぷりん……」


「プリン?」


「ぎゅうにゅうかんてんえくれあみるふぃーゆちょこれーとばうむくーへんあいすくりーむきんつばたるとけーきさぶれ────」


「ストップストップ!わかった!わかったから!途中で欲しいお菓子あったらなんでも買ってあげるから!」


「ほんと?」


「ほんとほんと、だからお姉ちゃんと一緒にお出かけいこ?」


「やった!…………ってお出かけ?え?お出かけ?」


 お出かけって外でお買い物するあれ?え、僕がやっていいの?


「そうだよー、今日は近くのスーパーにお出かけ行くからねー」


 ちー姉ちゃんに笑顔でそう言われ、僕は急展開に思わずぽかーんとなってしまったのだった。

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