第59鱗目:休み時間!龍娘!

「しゅー……ふしゅー……」


「ほら、天霧大丈夫だから。もう皆あんな事しねぇから」


「しゃふぅー……」


「お菓子あるけど食べる?」


「…………たべる」


 皆が離れた後、教室の隅で尻尾に抱きつきながら涙目で座り込んでいた僕は、隆継とさなかちゃんにもう大丈夫と説得(お菓子の譲渡)をされていた。


「…………ぷはっ」


「落ち着いた?」


「うん……」


「そっか、落ち着いたみたいでよかったわ」


 さなかちゃんから貰った水を飲んで落ち着いた僕は、小さくこくんと頷くとさなかちゃんの服の裾をきゅっと握る。


「お前ら、質問すんのはいいけどちゃんと謝ってからにしろよ?」


「「「「「「「はい……」」」」」」」


「それじゃあ改めて、質問したい奴は並べー」


 2人がいて本当によかった…………


 その後、質問されたり翼や尻尾を触られたりはしたが、最初の時みたいなトラブルは無く無事にクラスメイト達と交流を持つことが出来た。

 ちなみに途中2人に「天霧さんの事知ってたの?」なんて質問もあったが、2人は「なんか放っておけなかったから」といって誤魔化していた。


 ーーーーーーーーーー


「それではこれにて1限目はお終い」


 そう言って授業中僕の方を見てソワソワとしていた数学の先生が教室を出ていくと、またクラスメイト達が僕の元へと集まってくる。

 しかし今度は最初の時みたいにならないように皆弁えてくれていた。


「ねぇねぇ、天霧さんの制服ってどうなってるの?」


「これ?尻尾用の穴と翼用の穴があるだけだよー」


「今度じっくりみてもいい?」


「いいよー」


「角って重い?」


「そこそこ?」


「ほほう……」


「尻尾ってどれくらい動かせるん────うおぉぉ!?」


「君の体に巻き付かせることが出来るくらいなら簡単に動かせるよー、驚かせてごめんね?」


「ビビったけど……今度それで持ち上げてみてくれないか?」


「いいよー♪」


「翼あるけど飛べたりするの?」


「飛べるよー、今度の体育の時にでも飛んでみせようか?」


「いいの!?楽しみー!」


「魔法とか使えたりする?火をぐわぁって出したり」


「そんなのは出来ないかなぁ」


「ならブレスとか吐けるのか?必殺ドラゴンブレス!みたいな」


「吐けない吐けない、吐こうとしたけど吐けなかったよ」


「鱗あるし脱皮とかするの?」


「恥ずかしいから聞かないで……」


「あっ、ごめん……」


 ーーーーーーーーーー


 ふぅ…………


「なんか、だいぶんスムーズに受け答え出来してたな。じっと見られるの苦手じゃなかったっけ?」


「僕じゃなくて翼と尻尾を見られてるって思うことにしたらなんとか、それにそのうち記者の人達を相手にしなきゃだろうし慣れとかないと」


 3時間目の休み時間になってようやく一息つけた僕に、意外と言った顔で隆継が聞いてくるのでググッと伸びをしながらそう答える。


「へー……ちゃんと考えてるじゃない。偉いわ、髪の毛梳いてあげる」


「さなかちゃんありがとー、でもちょっとトイレ行ってきてもいい?」


 まだいけると思ってたら直ぐに失敗しちゃうから…………ほんと、女の子ってトイレ近いよね…


「……?分かったわ、行ってらっしゃい」


 ふっ、と遠い目をした僕にさなかちゃんは首を傾げつつも、そう言って手をヒラヒラと振って送り出してくれた。


「ん、行ってくるー」


 さて、それじゃあやらかしてしまう前に済ませてこようっと。


 僕はさなかちゃんに手を振り返しながら、鼻歌交じりに教室を出ていった。


「………………一応、ついて行こうかしら」


 ーーーーーーーーーー


 えーっとたしかトイレは……うっわぁめっちゃたむろしてる………混んでるのかねぇ…………


 一年棟の4階にあるトイレへと向かった僕だったが、トイレの前で女子も男子もたむろしてるのを見て混んでると思いうへぇといった顔になる。


 別のところ探そ、たしか真っ直ぐ行けば理科棟があったはずだからそこのトイレに…………ってやっぱりめっちゃ見られてるよぅ……


 朝礼の時に校長先生が言ってくれたおかげで写真こそ撮られてないが、僕は周囲の視線を感じて少し顔を赤くしながら早歩きで理科棟へと向かう。


 あったあった、しかも人が居ない!

 さっさと済ませて出てこよ────────


「鈴っ!」


「わぁっ!?ってさなかちゃん?それに鈴って僕のこと?」


 いきなり後ろから声をかけられた僕が驚いて後ろを振り向くと、そこにはさなかちゃんが立っていた。


「そうよ、ほらトイレなら案内してあげるからついてらっしゃい」


「えっ、でもトイレならそこに…………」


「い・い・か・ら」


「は、はい……」


 そうして僕は有無を言わせぬ雰囲気のさなかちゃんに手を引かれ、理科棟の端にある階段へと連れていかれる。


「ねぇ、どうして別の階に連れてくの?トイレあそこにあったのに」


 階段を降りてる最中に僕は周りに人が居ないのを確認しつつ、小声でさなかちゃんに聞いてみる。


「やっぱり気がついてなかったのね」


 やっぱり?


「あの階のトイレは男子トイレよ、理科棟の女子トイレがある階は1階と3階」


「えっうそ」


「うそもなにもほんとよ、前に基本部屋に居るって聞いたから一応と思って来たけど…本当に来といてよかったわ」


 さなかちゃんにそう言われ、僕は日医会の本部にいた時も自分の部屋のトイレしか使ってなかったのを思い出して苦い顔になる。


 自分の部屋のトイレばっかり使ってたから何も思わなかったけど…………そうだよね、僕女の子なんだから女子トイレ使わないと……男の頃の習慣が抜けてなかったか…………


「ありがとうさなかちゃん」


「いいってことよ、鈴が男だったってバレないようにするのがアタシと隆継の役目なんだから。それにさなかじゃなくて隆継みたいにサナって呼んでいいわよ」


「じゃあさーちゃんで」


「ふふっ、いいわよ」


 そうして僕はさーちゃんに手を引かれて行った。


ーーーーーーーーーーー


以下キャラ紹介


・柊さなか


最初はさなかちゃん、今はさーちゃんと鈴香に呼ばれている人物。

周りからは柊さん、サナと呼ばれている。

鈴香に柊さんと呼ばれている柊一の姪で、三浦に鈴香のフォローを任されている1人。鈴香のブレーキ役。

見た目は整った容姿ではあるがキリッとした切れ長の目や黒髪ロングという見た目から落ち着いた、それでいてクールな印象が与えられる。

身長は166センチ

性格も見た目通りで落ち着いていて、クールでサッパリとした性格。

両親は海外で仕事をしている為、叔父の柊一と一緒の家に住んでいるが夏休みから鈴香の家に住むことになる。

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