第二章:一学期編
第55鱗目:あれから
梅雨も明けてジリジリとした暑さが照ってくる7月の上旬、学生達は夏休みまで後10日を切った頃、世間、いや世界は1つの話題で持ち切りになっていた。
『日医会の新薬、発見は人体実験から!?』
『あの翼の少女は何なのか!日医会の真実に迫る!』
『異星人?新しい知的生命体?少女の正体は』
『日医会の都市伝説は本当だった!あの少女は生体実験による突然変異で生まれた!?』
『日医会が生体実験、人体実験の疑い!?先日行われた国連、政府の査察の結果は!』
バサりとそんなタイトルが書かれた新聞記事を三浦は机に投げ捨てると、疲れたように大きなため息をつく。
「お疲れみたいっスね、リーダー」
「柏山か、疲れるも何もこんな事になって疲れないわけがないだろう。まぁ楽しいからまだいいんだがな」
上層の休憩室で柏山に話しかけられた三浦はそう答えつつ、リモコンを手に取ってテレビを付ける。
『例の少女なのですが世間では新しい知的生命体、もしくは日医会が人体実験で生みだした人造人間等と言われていますが山本さん、これどう思われます?』
『そうですね、日医会は確かにとても大きい組織なのでそういった事も疑いがかかるのは必須でしょう。しかしそれは先日行われた国連と政府による査察で分かると思いますし、それでハッキリするかと』
『ほほうそれで────────』
「毎日毎日同じ質問をしてくる記者を相手に何時間も同じ説明をした挙句、まとめてだが機密以外の場所の案内までしてるんだ」
「自分達が変われればいいんっスけど、こればかしはある程度立場のあるリーダーじゃないと務まらないから申し訳ないっス」
「気にすんな、でも色々とめんどくさいのは事実だな。鈴香と連絡取りたくても傍受されかねないから迂闊に連絡すら出来んし、ここの周りには昼夜問わず記者やら保護団体やらがわらわらと…………いっそあいつらこそ人権侵害で捕まればいいんじゃねぇか?」
「ははっ、確かにその通りっスね」
テレビ番組の解説を聞き流しながら三浦と柏山はそのような会話をする。
ピッ
『水島さんどうです?今話題のあの女の子!』
『あの子ですか?可愛いですよねぇー、それでいてあの大きい翼に尻尾!あれで空が飛べるなら1度空に連れて行って欲しいですね!』
『おぉ!なかなか勇気がある、それでは次は─────』
ピッ
「にしてもニュースもバラエティーも、紙媒体もネットも何処も彼処も鈴香の話題ばっかりだな」
「しかも姫ちゃんの話題の8割くらいが陰謀論とか都市伝説に持っていかれてるのがほんとにもう……」
都市伝説や陰謀論とは無縁としか思えない鈴香の明るい笑顔を思い出してはははと微妙な笑いを浮かべている柏山に、三浦は苦笑いを返す。
それを見た柏山はもしかしてと思い聞いてみる。
「リーダーの仕組んだことっスか?」
「さぁどうだろうな、俺は世論が鈴香に危害が向かないようにちょちょいっと噂を流しただけだ」
「ははは、そうだったんスね」
『そうですね、もしこの天霧鈴香という翼の少女を人間以外の呼び方で呼ぶとするなら………龍人……いや龍娘と呼びますね』
つけたままのテレビからタレントが鈴香に対してそんなコメントをしているのが聞こえてくる中、三浦はそういやと思い出したかのように柏山へ問いかける。
「確か明日だったよな?」
「明日……?あぁ!それなら明日っスね」
「それじゃあそろそろ準備するか……姫…いや我らが龍娘を喜ばせないとな」
三浦はそう言うと席を立ち上がり、スマホで予定を確認しつつ新聞紙を持って部屋へと戻って行った。
スマホの画面に映るカレンダーには2言、「鈴香」「初登校」とだけ書かれていた。
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