第54鱗目:船出、龍娘!

「──────────となっております。以上が今回我々が発見、開発した物です。そして今日はこれらの発見全てに関わった方に特別に来て頂いております。ではご登場して頂きます、天霧鈴香さんどうぞこちらに」


 誰にも僕が有益でないと言わせない為の研究成果を大勢の記者の前で発表した三浦先生は、そう言って僕が立ってる衝立の方へ手を向ける。

 僕がちー姉ちゃんの顔をちらっと見るとニコッと笑顔で頷いてきた、僕は1つ息を吸って緊張しながらもゆっくりと足を踏み出す。

 その瞬間ガシャガシャガシャガシャガシャとシャッターが切られる音と、僕が小さい女の子ということからかどよめきが起き、衝立の裏から全身を出す頃には…………


 シンと会場は静まりかえった。


 全ての音が無くなった中、僕はマイクを貰い記者の人達の方に振り向き覚えた文を喋り始める。

 その途端記者の人達は我に戻った様に先程までよりも更に凄いシャッター音と、凄い量のフラッシュが焚かれだし、僕は目を細める。


「天霧鈴香さんありがとうございました、今後ともよろしくお願いします」


「こちらこそ、今後ともどうかよろしくお願いします」


 即興のアドリブだったが喋り終えた僕は三浦先生と笑顔で握手をして翼を少し大きめに動かし、記者の人達の方へ振り向きお辞儀をして壇上を去る。


「あの少女は何者なんですか!?」「日医会は人体実験を!?」「翼や尻尾は動いてましたが本物なんでしょうか!?」「日医会は人を改造してるのですか!?」「あの少女は人間なのですか!?」「彼女は異星人、新種の知的生命体ですか!?」「皆様!落ち着いてください!落ち着いて!」


 後ろからそんな大騒ぎが聞こえてくる中、僕は三浦先生の言いつけ通りちー姉ちゃん達と一緒にトラックのある場所へと走る。


 ーーーーーーーーーー


「いいか鈴香」


「はい、なんでしょう?」


「お前が出てきたらまず間違いなくパニックに近い状態になる、そうすると奴らは事情を知ってる人に説明を求める。その間奴らは俺らに釘付けだ、だからその間に逃げろ」


「逃げるったって……どこに?」


「何時ものトラックがある場所に陣内達を待機させてる、そのトラックに乗り込むんだ。そうすれば前に話してた家まで陣内達が送ってくれる」


 ーーーーーーーーーー


「姫ちゃんこっちっス!」


「早くっ!」


「見えたわ!鈴香ちゃんダッシュ!!」


「分かった!ちー姉ちゃん!」


「え!?あっ、ちょっ!」


 トラックの前でこっちこっちと手を回している柏山さんと陣内さんが見え、僕はちー姉ちゃんを持ち上げて扉の空けられているトラックの荷台へと飛び乗る。

 すぐさま扉が閉じられトラックが発進する音が聞こえて来る、そしてトラックが動き出したのを感じた僕はふぅと額にある汗を拭おうとして……


「すっ、鈴ちゃんっ、下ろしてー!」


「あっ、ごめんちー姉ちゃん」


 先に持ち上げていたちー姉ちゃんを怪我させないようにゆっくりと下ろす。地に足がついて落ち着いたのかちー姉ちゃんは胸をなでおろして。


「あでっ!な、なにちー姉ちゃん?」


「無闇矢鱈に物とか人を持ち上げない、やっちゃダメって言ったでしょ?」


「ほへんははひー!」


「うむ、よろしい。それじゃあ…………うりうりうりうり!んー!このむにむにぷにぷにがたまらん!」


「ふむぁっ!ふぁっはなー!」


 ゲンコツを落として来た後、ほっぺたをむにむにとしながら怒ってきた。

 僕はそれに謝った後、何時ものようにちー姉ちゃんとほっぺたをむにむにし合って目的地に着く直前までじゃれあっていた。


 ーーーーーーーーーー


 ゴッ!


「い゛っ゛!」


「わっ!鈴ちゃん大丈夫!?すっごい鈍い音だったけど……」


「つっー…ちー姉より丈夫だから大丈夫ー」


 さすさすと急停止して打った頭を摩りつつ、僕はちー姉ちゃんにサムズアップしてみせるとそのタイミングでスピーカーから声が聞こえてくる。


『着いたぞー』


「あらもう?というか止まるならもうちょっとゆっくり止まりなさいよ、鈴ちゃん頭打ったわよ?」


『お前らが騒がしかったからその仕返しだ。まぁそれはそれとして…………ほら、外だぞ』


 プツンと音を立ててスピーカーが切れるとゆっくり荷台の扉が開き出す、フラッシュの眩しさとは違う眩しさに目を細めた僕の頬を風が撫でる。


「わぁ………………」


 ゆっくりと目を開けた僕の目には綺麗に狩り揃えられた芝生のある庭と平屋建ての広い一軒家、そして家の裏にある大きな山とどこまでも続く蒼い空。

 たった数ヶ月見なかった外の景色は僕にとって数ヶ月前とは全てが違って見えるほど鮮やかで、声を発するのすら忘れる程だった。


「鈴ちゃんおいで」


 感動で動けずに居た僕に荷台から降りたちー姉ちゃんが僕へと手を伸ばしてくる。

 僕はゆっくりと外へと向かって足を進め、ちー姉ちゃんの手を取って外へと降り立つ、その瞬間僕は言い表せないほどの感激を味わう。


「ちー姉ちゃん…………僕………」


「おかえり、鈴ちゃん!」


 こうして僕は表社会へと戻ってきたのだった。

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