第53鱗目:準備!龍娘!

「よし出来たっ!鈴ちゃんもう目を開けていいよー♪」


 ちー姉ちゃんにそう言われ、僕が閉じていた目をゆっくりと開けると…………


「おぉ…………なんか……メリハリがついた?」


 いつもより透明感の増した白い肌に、いつもよりぱっちりと大きく見える目、口には薄く紅がさしてあり、ほっぺはほんのりピンクになっている化粧を施された僕の姿が目の前の鏡に映っていた。


「うんうん!何時もの可愛鈴ちゃんもいいけど美人な鈴ちゃんもいいっ!」


「そ…そうかな…………でもちー姉ちゃん…………ほんとにお化粧しなきゃダメ?」


「そりゃそうよー!大人の女性がすっぴんで外に出るなんて、裸で外をウロウロしてるのと同じなんだから!」


 そっ、そこまで言うレベルなのか……?ちー姉ちゃんって普通にスタイルもルックスもいいから別にそんな事無いだろうに…………

 ていうか……


「それなら僕、まだ子供だからしなくていいじゃん」


「あら、屁理屈さんかしらー?でも今から大勢の前に出るんだからやっぱりしておかないとね、それと鈴ちゃん今日は「僕」じゃなくて「私」よ?」


「むぅ…………分かったけど……顔むずむずする!化粧とっちゃダメ!?」


「あっこら顔擦ろうとしない!少しの間だけなんだから我慢して?」


「うぅぅぅぅぅ……!」


 早く…早く終われぇぇぇ……終わってくれぇぇぇ……


 褒められた嬉し恥ずかしさとは別に、お世辞にも快適とは言えない慣れない化粧の感覚に唸り声を上げつつ、全体的に明るめなスラリとした印象の服に身を包んだ僕は控え室にて頭を抱えていた。


 ーーーーーーーーーー


 時間は数時間前に戻る。

 昨日三浦先生をとっ捕まえた後長々と話をした結果、渋々とだが必要な事と諦めて記者会見に出るのを許可した僕は三浦先生に呼び出されていた。


「という訳で昨日言った通り今日は記者会見に出てもらう訳だが、鈴香は基本何も喋らなくてもいい」


「え?喋らなくていいんですか?」


「おう、と言っても挨拶くらいはして貰うがな。セリフは渡しとくが、最悪覚えてなくてもいい」


 きょとんと首を傾げていた僕は三浦先生が渡してきた紙をみるとそこには少し長めの文が書いてあり、数分もあれば覚えられそうな内容だった。


「まずお前が出るだけで大スクープだからな、下手に質問される前に挨拶済ませて退却だ。だが……そうだな、せっかくだし出てきたら翼を動かしてくれ」


「いいですけど……」


 なんでわざわざ…………あっ、なるほど。


「本物だって解らせるためにですか?」


「そうだ、緊張するだろうが頼んだぞ。その……力の制御とかもな」


「えーっと……大丈夫です、はい。それに実はこの間の1件の後から前よりも力加減が上手くいくようになったんです!」


「ほう………………やはり何らかの力…いや魔力が使えるようになったからか……?」


 僕の報告に三浦先生は目付きを鋭くしたかと思うと、何か小声で呟いた。


「どうしました?使えるようになったとかなんとか……」


「いや、なんでもない。とりあえずよろしく頼んだぞ」


「はい!」


 三浦先生に優しく頭を撫でられながら、僕は元気よく返事をして……


 ーーーーーーーーーー


 そして今に至るという訳だ。


「ご紹介に預かりました天霧鈴香です。この度は日本医療医科学協会の大きな功績に携わることが出来、とても光栄に思います。多少普通の人とは違う部分はございますが、どうか皆様と変わらぬよう心からお願い申し上げます」


「それって今日の挨拶のやつ?ちゃんと覚えれたのね、凄いよ鈴ちゃん♪」


「えへへ……♪これくらいなら覚えれるんだよー?」


「偉い偉い〜♪そういやお薬は飲んだ?」


「うん、ちゃんとのんだよ」


 ちー姉ちゃんに頭を撫でられながら僕は頬を緩めつつも得意げに胸を張りつつ、ちゃんと三浦先生に渡された薬を飲んだ事を報告する。

 僕達がそんな事をしていると扉ががチャリと開き、叶田さんと大和さんが部屋へ入ってくるのを見た僕の緩んでいた顔は一瞬で固まる。

 なぜなら……


「おっ!お化粧もバッチリだねー!いいよいいよー!さて、それじゃあ鈴香ちゃん出番だよー」


「という訳で迎えに来たわ、花桜さんに教えて貰った作法通りにやれば問題は全くないわ、だから頑張るのよ?」


 ついに来たかぁぁぁぁ!


 この2人が来たということはいよいよ僕の出番だということだからだ。


「ふーーーー………………はいっ!やってやります!」


「鈴ちゃんも気合い入ったみたいね!それじゃあ行こっか?」


「はいっ!」


 長く息を吐いてぺチンと頬を軽く叩いて僕は気を引き締め直し、ちー姉ちゃんに元気よく返事をして待合室を出た。

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