第49鱗目:怯え…龍娘

 ガゴリボゴリゴガリゴクン


「うーむ……美味しい!」


「横から見てると本当に美味しそうに食べてるから凄いのよねぇ……音も凄いけど……」


 普段ならもっと女の子らしくと怒って来るであろうちー姉ちゃんも石英、つまりは水晶を食べている僕を見ている時は複雑な顔になっていた。


 おっ!こっちのはちょっと甘さ控えめだけどスッキリした味わいで美味しい!産地で味も変わるのかなぁ?それにしても……

 んー♪こんな美味しいなんて今まで本当に人生損してたよー♪

 いや違うか、今の体だから美味しいのか。つまりは「龍の体で水晶が美味い」これだな、うん。


「さて、それじゃあ鈴香ちゃんもエネルギー補給終わったみたいだし行こうか」


「はーい…………もう一個だめ?」


「ダーメ♪直してらっしゃい」


「はーい……」


 もう一個食べたかったなぁ……


 僕はちー姉ちゃんに対する必殺技、上目遣いを使用したが流石は研究者と言うべきかこういう所はきちんとしてて笑顔でダメと言われてしまった。

 はっきりとダメと言われ僕は物足りなくて指を咥えてしゅーんとなりつつも、ちゃんとちー姉ちゃんに言われた通り水晶が沢山入った袋を私物置き場に置いてくる。


「それじゃ改めて、鈴ちゃん行こ?」


「はーい!」


 僕は元気よく返事をしてちー姉ちゃんが差し出してきた手を取り、仲良く部屋を出たのだった。


 ーーーーーーーーーー


「それでね〜……あっ」


「どうしたのちー姉ちゃん」


 今日僕が実験、といっても筋力の測定くらいなのだがそれを受ける第27実験室へと向かっていた所、ちー姉ちゃんがいきなり声をあげた。

 僕はどうしたのだろうと首を傾げながらちー姉ちゃんの顔を見る。


「いやー、部屋に端末忘れてきちゃった……実験室まであと少しなのに」


「ありゃ、それは取ってこなきゃ」


「だね、ちょっと取りに戻って来るよ。鈴ちゃんは先に実験室向かってて?」


「〜♪はーい!」


 ちー姉ちゃんは僕の頭を撫でながらそう言うと、僕に手を振りながら早歩きで元来た道を戻って行った。


 全く、ちー姉ちゃんはうっかり屋さんだなぁ…………まぁそれが可愛くていいんだけどね。


 その場に残された僕は暫く手を振り返した後、ポケットから端末を取り出して三浦先生にちー姉ちゃんが遅れることを連絡しようとして……


「あっ、電池切れてる……」


 あははは………僕もちー姉ちゃんのこと言えないなぁ…………


 端末をポケットに直しながら僕は苦笑いを浮かべ、とりあえず実験室に向かおうと歩き始めようとした所で……


「────っ!?」


 突如ゾワリと背中を這うような嫌な予感を僕は感じ取り、この先の廊下の曲がり角に僕は視線が釘付けになる。


 なんか……すっごく嫌な予感が…………早く…ここから離れた方が…………でも……目が離せない………見なきゃ…………


 龍の本能なのか、そんな嫌な予感を感じたにも関わらず僕はその予感の正体を見なければいけないという使命感に囚われ、その場から動けないでいた。

 そして僕が見ているその曲がり角から高そうな革靴が覗き、次にパツパツになったスーツに覆われた腹が、そして最後にニヤけた顔の男が現れた。


 外の人……?でもよかったただの人で…………なら…なんで…?どうしてあの人から……こんなにも嫌な感じが……


 この時僕は確認したのだからさっと少し下がって曲がり角に隠れるべきだったのだ。なぜなら、その男がたまたまこちらを向いた時、僕はその男と目が合ってしまい…………


 こっ、怖っ……!なんで……なんでこんなに怖いんだっ!?相手はただの人なのに!


「あっ……ぅぁ………ぁぁ…………」


 全身の毛、いや鱗までもが逆立つような恐ろしさ、そしてそれ以上気持ち悪さに僕は襲われて一瞬、そう、一瞬だけ固まってしまった。

 僕と目のあったその男はニヤけた顔が嘘のようにギョッとしたような表情を浮かべた後、それまで以上にニヤけた顔になって僕へと近づいてきた。


「ほうほう………………ほうほうほう…………ほうほうほうほうほう!」


 にっ、逃げないと!あれ!?足が動かない!?どうして!?動けっ!動いてっ!!


 固まってしまった一瞬の内に、同じ言葉を何度も繰り返しながら前のめりになる勢いで近づいてくるその男に僕は完全に怯えて、身動きひとつ取ることが出来なくなってしまった。


「はっ!田上様危険です!離れてください!」


「これはこれは!!聞いていたとはいえまさか本当に日医会の下層がこんな特大の、そして特上の宝石を隠し持っていたとはっっっ!」


「ぴっ……!?」


 曲がり角から少し遅れて顔を覗かせた覆面軍団の先頭に居た秘書が男、田上を呼び止める声も聞かず、興奮した様子で田上が僕にずいっと近づいてくる。

 僕は田上の興奮した息と恐ろしく気持ち悪い目を間近で見てしまい、短い悲鳴をあげて尻もちをついてそのまま後ろへと後ずさる。

 しかし僕が立っていた所は丁度曲がり角から出た場所で、背後には直ぐ壁があった。


「ひひひ……こんな極上の至宝がこんな研究バカ共の中に隠されていようとは……!こっちにおいで……」


「い…いやっ……こないで………や……」


「ほーぅら、怖がらなくていいんだよ…………一緒においで……」


 壁に追い詰められた僕は田上に抵抗を示すが、田上のその甘い言葉は欲望丸出しの声色で気持ち悪さを増し、さらに舌舐めずりまでしながら近づいてきていた。


「やだ………いや……僕は…………」


「さぁ……ワシと来るんだ…一緒に楽しい事をしようじゃないか……」


 田上は荒い息と共に力の入らない僕の手を左手で押さえ込み、余っていた右手は僕の逆鱗がある所へと伸びてきて────


「ぎッ!?」


 僕の意識はそこで真っ白になった。








 テキヲタオセ

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