第48鱗目:和やかな朝、龍娘
あの二人と出会ってから早くも2週間が過ぎ、もう6月も終わりが近づいてきていた。
僕はいつものように目を覚まし、いつものように朝ご飯の用意をする。そしていつも通りちー姉ちゃんを起こして一緒にご飯を食べていた。
そして朝ご飯を食べ終え満足そうな顔のちー姉ちゃんを横目に、食器を片付けようとした所で僕は突然何かを感じ取った。
「〜〜♪……ん?鈴ちゃんどうかしたの?」
「んー……なんか嫌な感じがしたというか…………」
僕はそう言うと目は特に何も無い壁の方へ向けていた目を戻して、止まっていた手をまた動かし始める。
「嫌な感じ?んー……まぁいいわ、それじゃそろそろ着替えましょうか」
「……うん……………………で、今日はそれ?」
僕はちー姉ちゃんが取ってきた服を見て今日はこの服なのかと質問をすると、ちー姉ちゃんはノリノリのハイテンションで頷いてくる。
「そうだよー!今日は動きやすさ重視のショートパンツスタイルー♪鈴ちゃん足もすらっとしてるからとっても似合うと思うよ!」
「はいはい、それじゃ着替えてくるねー」
僕は熱っぽく語るちー姉ちゃんに苦笑いしながらそう言うと、翼と尻尾を揺らしながら脱衣所へと向かう。
ちー姉ちゃんってだいたいいつもスカートとかフリフリなのばっかり進めてくるからなぁ……ズボンなんてすっごい久しぶりだ。
丈こそ足の付け根くらいしかないが、もはや男の時以来に着る久しぶりのズボンに僕は謎の背徳感を感じながらするすると足を通す。
おぉー、なんか大分男の時とは違った感じ………少し気になるといえばお尻がパツパツというか……いやまぁ十中八九尻尾が原因なんだけどさ。
チョイチョイとズボンを引っ張り、着心地が落ち着いた所で上も胸元に猫のマークがある白地のTシャツに着替える。
「ちー姉ちゃん着替えたよー」
「お!いいねー!似合ってるよー!うんうん!ボーイッシュな感じも可愛い!」
「ありがとー♪ちー姉ちゃんお化粧終わったらいつも通り髪の毛お願いー」
お化粧中にも関わらず僕にいい笑顔でサムズアップしてくるちー姉ちゃんに似合ってると言われ、僕も声を弾ませて髪を整えて貰うように頼む。
「さーて、それじゃあいっちょやりますかー!お客さんリクエストはありますか?」
「んー、店員さんのおまかせコースで」
「はーい!じゃあ今日は簡単にポニーテールにしちゃおう、服にも似合ってると思うし。前髪は自分で出来るね?」
「うん、任せて」
ちー姉ちゃんとそんな毎朝のやり取りをした僕は私物置き場にある箱からヘアピンを取り出してきて、ちー姉ちゃんに背を向けて座る。
「ねぇちー姉ちゃん」
「なぁに鈴ちゃん」
「前々から思ってたんだけどさ」
「うんー」
そんなちー姉ちゃんの生返事と髪の毛を櫛で梳いて貰う心地よい感覚を感じながら、僕は前髪を整えつつ前々から思っていたことを口に出す。
「髪の毛長いの邪魔だから切っていい?」
「ダメ」
「えー、なんでー」
「ダメったらダメ、もし勝手に切ったらプリン没収」
「うぐっ…………わかった……」
プリンを人質にしてくるなんて……卑怯者ー!
僕はパチリとヘアピンを留めつつ、残念とため息を着く。
「でも少しは整えた方がいいかも……今度切ってあげるね」
「やった♪〜〜♪」
ちー姉ちゃんに髪を切ってもらえると聞いて僕は上機嫌に鼻歌を歌い出す、そんな和やかな雰囲気の中で朝の時間はゆっくりと進んでいくのだった。
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同時刻、ビルの一角でその太い男、田上誠一郎は鏡の前に立ち、身だしなみを整えていた。
「では行くとするか」
「はい。お車の用意は出来て居ますのですぐにでも」
美希と呼ばれている秘書が田上にそう伝えると田上は満足気に頷き、部屋を出るべくドアへ向かう。
「ご苦労。さて、それでは今度こそ日医会の下層が必死に隠しているモノを暴かせて貰おうじゃないか。そして────」
ドアノブに手をかけた田上はそこでニヤリと気味の悪い笑を浮かべると……
「ワシのコレクションに加えてやろうじゃないか」
そう一言言って部屋を出ていった。
まぐれかそれとも龍の勘なのか、奇しくもその田上の居た部屋は鈴香が見ていた方角にあった。
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