25鱗目:お客さん?竜娘!

「全く…………本当に全く……水中に超長時間潜れるなんて………報告する身にもなってくれよ……本当に全く。お前にはエラでもついてるのか?」


「あはははは……大丈夫です。流石にエラはないです。はい」


 プールから戻って数日後、改めて身体検査をされた僕は、頭を抱えている三浦先生を前に苦笑いをしていた。

 ちなみになぜ検査されたかというと、水中にどれだけの時間潜れるかという実験の結果、少なくとも3時間以上息継ぎなしで水中に居る事が出来ると分かったからである。


「そうだ、そっちに今施設にあるだけの石英集めといたから帰りに持って行け」


「やった♪ありがとうございます!」


「それじゃあ今日は一昨日言ってたようにテストだ。五教科総合460点以上取れれば要求通り今後、毎週のお菓子の数をプラス2してやろう」


「やたっ!」


 お願いしといた甲斐があった!

 これで点数さえ取れれば甘い物もっと食べれるようになるぞ!甘い物以外はだって?今は甘い物が1番好きなんですー。


 テストの結果次第だがお願いしておいた事が叶えて貰えると聞いて、僕はヨッシャとガッツポーズを取りぴょんぴょんとはねて喜んでいた。


「だが、要求には対価が必要、報酬を要求するからには勿論失敗した時の罰も必要だ。という訳でもし最低400点未満だったら…………」


「だったら……?」


「2週間の間毎日の勉強時間プラス1時間な。それでもやるか?」


「うぅぅ…………やってやらぁ!」


 ニヤリと三浦先生が悪い笑みを浮かべるのを見て僕は少し怯んだものの、気合いでそれを跳ね除けて三浦先生の前にある席にぽすんと座る。


「それじゃ、テスト開始だ」


 三浦先生のその一言を合図に僕は三浦先生の出したテストを解き始めたのだった。


 ーーーーーーーーーー


「うぅぅぅぅ…………」


「残念だったな。でも447点も取れてたんだ。充分上出来だよ」


「みるくぷりんんんんん…………」


「……お前本当に甘いの大好きだな」


 全部解けたと思ってたのにぃ…………くそぅ。次こそは…………


 机に突っ伏し本気で僕が悔しがっていると扉がノックされ、千紗お姉ちゃんが入ってくる。


「失礼しまーす……ってあら。鈴ちゃんダメでしたか」


「いや、テストは充分いい点数とれたんだがな」


「ぎゅうにゅうかんてん…………」


「なるほど、ご褒美の点には届かなかったと。ふむふむ……って三浦さんこれ一部高校3年レベルじゃないですか。流石にこれは鈴ちゃんが可哀想ですよ」


「いやぁー……教えたら教えただけ吸収するからついな」


 僕のテストを千紗お姉ちゃんは手に取ると、これは可哀想と言う顔で三浦先生を見てそう言う。


「ちょこれーとー……あうっ」


「鈴ちゃん甘い物から戻っておいで。こんな難問でここまでいい点数取れてるし、これは三浦さんにも非はあるからご褒美くれるはずだよ。ですよね?」


 ぺちぺちと机を叩く僕を千紗お姉ちゃんは慰めてながら、千紗お姉ちゃんはニコッと三浦先生に笑いかける。

 お前が悪いんだから頑張った妹にご褒美を寄越せと言わんばかりの笑みで。


「えくれあ……みるふぃーゆ…………ももかん……きなこもち…………あんにんどうふ……」


「…………仕方ない。いい点数取れたのは事実だしな、そのままは行けないが少し減らしてプラス1個してやろう」


「やったぁ!」


 僕は両手を上げてぴょこんと椅子から降り、にぱーっと八重歯を見せたとてもいい笑顔でえへへと喜ぶ。


「あーもう本当に鈴ちゃん可愛いわー!」


「んみゅう?!」


 千紗お姉ちゃんのやわっこいのがっ!!


「お前達が仲良いのはとてもいい事だが……天霧」


「「はい」」


 三浦先生に名前を呼ばれて楽しそうにニヤニヤして僕の頭に頬ずりしてる千紗お姉ちゃんと、頬ずりされむぅっとしていた僕が一緒に返事をする。


「あ、いや鈴香じゃなくて千紗の方だ。何か用事だろう?」


「あ、そうでした。2人が来ましたよ」


「お、もうそんな時間だったのか」


 2人が来た?誰かお客さんかな?


 2人の会話を千紗お姉ちゃんの腕の中で聞いていた僕は、そう考えて頭と尻尾を傾ける。


「お客さん来たなら僕は部屋に戻らなきゃですね」


「ん?あぁ、そうだな。所で天霧、あの書類にあの2人と花桜、柊はサインしたんだな?」


「はい、一応こちらに」


 千紗お姉ちゃんはそう言うと、どこからともなく取り出したクリアファイルから出した書類を三浦先生に渡す。


「…………よし、なら行くか」


「2人ともいってらっさいましー」


「おう、そうだな。だが鈴香、今回の客はお前の客だ」


 僕の客ってどういうこと?というか僕の存在ってまだ秘密なんじゃないの?……って、ん?


「へ?えっあっ、ちょっ、千紗お姉ちゃん?!三浦先生まで!?えぇぇぇぇえ!?」


 隙を見せた僕の右手と左手をそれぞれ三浦先生と千紗お姉ちゃんに腕を引っ張られ、僕はそのお客さんの所へと連行される事になったのだった。


 にしても僕にお客さんかぁ……いきなり翼とか触られないといいなぁ。

 それに服はともかく髪の毛大丈夫かな?お客さんが相手ならやっぱりそれ相応に身嗜み整えとかないと…………


「あら、鈴ちゃん髪の毛気になる?」


「うん、ちょっとね。流石にお客さんに会うんだから身嗜みはきちんとしとかないと」


「あら♪いい心がけね鈴ちゃん。でも今日はそこまで気にしなくても大丈夫よー。それに髪の毛も綺麗に整ってるから。安心して?」


 そこまで気にしなくてもいいってことはお偉いさんじゃ無いのかな?

 なら一安心だけど……そうなると本当に今回のお客さんって誰なんだろう?


「それじゃ、呼んでくるからこの部屋で待っててくれ。その姿になって初めて会う外の人で緊張するかもしれんが…………とりあえず落ち着け」


「はっはひっ!」


「あはは…………鈴ちゃんガチガチに緊張しちゃってるね。リラックスリラックス。私も一緒に居てあげるから」


 この姿になって初めての外の人との対面ということで、柔らかいソファーに座らされた僕はソワソワと髪の毛をいじったりしていた。


「まぁ話してる内に打ち解けると思うし、とりあえず俺が今から呼んでくるからここで座って待っててくれ。後はなるようになるさ」


 三浦先生はそう言うと部屋から出ていき、黒い革張りのソファーや大理石のテーブルなど豪華な家具の揃えられた応接間には僕と千紗お姉ちゃんだけが残される。

 そしてソファーに座り慣れてない僕は、翼や尻尾を忙しく動かしてそれらしく見え、それでいてキツくない尻尾や翼の位置を探す。

 その結果最終的に尻尾は横から回して足元に寝かせるようにし、翼を出来るだけすぼめて前へ傾け、翼爪を膝前に持ってくることにした。


「よし、完璧」


「あら、なんかお上品な感じでいいじゃない。それで決まり?」


「うん。これにする。はぁぁぁ……緊張してきたぁぁ…………」


「ふふっ、大丈夫よ鈴ちゃん。だって今日くる人は────────」


「連れてきたぞー」


 千紗お姉ちゃんが何か続けようとした所でガチャリと音を立てて扉が開かれ、三浦先生が入ってくる。

 そしてその三浦先生の後には学生服を着た女の子と男の子が居て、その2人と僕はバッチリ目が合ってしまう。

 そして暫く彼らも僕も固まってしまい……


「うおっほん。あー2人共、ソファーにとうぞ」


「はい鈴ちゃん。それに2人もお茶どうぞ」


 わざとらしい三浦先生の咳で僕とその2人はハッとし、慌ただしくソファーに座ったりお茶を飲んだりとする。

 しかしその間も2人の視線はずっと僕へ向けられており、なんだか恥ずかしくなり耳を赤くして俯いてしまう。


「あー、2人とも?鈴ちゃんはじっと見られるのは慣れてないの。だからあんまりじっとは見ないであげて?」


「す、すんません!」


「そうでしたか……すいません。本当に翼と尻尾があるなんて思ってなくてつい見ちゃいました。それでその………それって本物なんですか?」


「あっはい、このとおり動かせますよ!紛れもなく本物です!」


 結構いい体格をしてる男の子が頭を下げて謝っている横で、黒髪ロングの切れ長のキリッとした目の女の子の方がそう聞いてくる。

 それに僕が律儀に返事をしてから翼を広げ動かしてみせると、2人は「おぉ」と驚いたような声を上げる。


「さてそれじゃあ俺らは少しだけ席を外すから、何かあったら鈴香の端末から呼んでくれ」


「鈴ちゃんすぐ戻ってくるからねー。それとお菓子ここに置いとくから好きに食べちゃっていいよー」


「はーい」


 やったお菓子食べれる♪


 僕が笑顔を浮かべつつ呑気にそんな事で喜んでいる内に、三浦先生と千紗お姉ちゃんは部屋を出ていく。


「おっかしーおっかしー♪あっ…………」


 そして僕はソファーから立ち上がり、お菓子を回収して後ろを振り向いた時に彼らと僕だけにされた事に気がついたのだった。

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