24鱗目:主食!竜娘!

「さかな〜さかな〜おさかな〜♪赤身魚に白身魚〜青魚〜に出世魚〜♪水曜日はお買い得〜♪」


 自らが作曲した謎テンポの歌を歌いながらプールの翌日にお休みを貰っていた僕は、上機嫌で下層区画の比較的外側の部分を散歩していた。


 今日の晩御飯はどうしようかなぁ……千紗お姉ちゃんがいいなら僕は魚かお肉を食べたい気分だけど…………うーん…お腹空いた。


 くきゅうとお腹が鳴り、そろそろ部屋に戻ろうと僕が思っていると、物凄く大きい荷物を乗せた台車が目の前の曲がり角からぬっと出てきた。


「うぉぉっ」


「うわっと、大丈夫………って姫かびっくりした」


「姫ちゃんがここまで来るって珍しいっスね、お散歩っスか?」


「はい、お散歩です。丁度今から戻ろうとしていた所で、それで陣内さんと……えーっと、なんなんっスって口癖だからー……柏山さん!お二人は何を運んでるんです?」


 何とか柏山さんの名前を思い出せた僕は成し遂げたと言わんばかりの雰囲気で、僕は汗だくの2人に何を運んでいるのかを聞いてみる。


「おぉ!よく覚えてたっスね!んでこれっスか?これはっスねぇ────」


「姫の検査とかに使う物とは別に仕入れた奴だな。多少所か必要より大分多く仕入れてるから、運ぶの手伝ってくれたら欲しいの持って行っていいぞ」


「いいんですか?!よーしっ!張り切って手伝っちゃいますよー!」


 陣内さんから荷物の中にあるのを少し貰えると聞いてやる気MAXになった僕は、2人が必死こいて押していた台車から軽々と持ち上げる。


「…………あいっっ変わらず馬鹿げた馬鹿力だ……いや馬鹿げてる力だから馬鹿力なのか……」


「そうっすねぇ…………所で先輩、なんでさっき自分が言おうとしたの遮ったんすか?」


「ここは俺が説明しなければならないと第六感が囁いたんだ」


「はぁ………第六感っスか……………あっ!姫ちゃんそこ右っス!」


「はーい!うわとととっ!」


 2人がそんな会話をしてるなんて知らず、僕は上機嫌で大きい荷物を持ちずんずんと先へ進んでいたのだった。


 ーーーーーーーーーー


「姫ちゃんありがとっス!あんな軽々運んじゃうなんて凄いっス!そんで本当に助かったっスよー!」


「えへへ……!こんなの余裕っす!軽々っす!」


「それ自分の真似っスか?おそろいっスね!」


「真似っすー!おそろいっスー!」


 抱えてきた荷物を指示された場所に置いた僕は、褒められて顔を綻ばせながら柏山さんの喋り方を真似したりして遊んでいた。


「…………700キロはあったんだがなぁ……」


「どうかしました?」


「いや、なんでもない。それより何かめぼしい物が無いか見てみたらどうだ?」


 アシスト機能付きの台車を戻した陣内さんが何か呟いたようで聞き返した所、なんでもないと言われたが漁っていいという許しが出たので早速箱を漁ってみる。


「何があるかな〜っと♪なにこれ?目の細かい金網?」


「それはフィルターっスね。硫酸とかにも強い特別製っス」


「ほうほう……うわーなんだこの変なフラスコ。管がいっぱいついてる……」


「それは透明摺合四ツ口フラスコだな」


「とうめいすりあわせよつくちふらすこ?」


「……変なフラスコでいい」


「はーい…………ん?」


 なんか箱の中から微かに美味しそうな匂いが……


 鼻をスンスンと鳴らしながら2人に荷物を渡しつつ、僕はその美味しそうな匂いの主を探す。

 そしてもうそろそろ箱の底の方にたどり着くという時に、その匂いの元を僕は見つける。


 なんだろ、これ。透明なー…………飴?

 なんだかすっごく美味しそう……


「柏山さん」


「どうしたっスか?」


「これ貰っていいですか?」


「それっスか?それなら持って行っていいっスよー」


「ありがとうございます!」


 僕が柏山さんにその透明なビー玉サイズの飴のような物が入っている袋を見せると、やっぱり飴だったのか柏山さんは直ぐにOKをくれた。

 僕は元気よく御礼を言うとウンウンと頷いてる柏山さんを横に、その袋の中にある透明な物を3粒口に放り込む。


 ん?飴じゃない?なら噛み砕いて……おぉー!

 甘ーい!そんでもって爽快感がある後味!!これは美味しい!

 というかなんかお腹が満たされるというか、足りなかった物が満たされるような感じが……


「いやー。姫ちゃんもやっぱり女の子と言うべきか、水晶を欲しがるなんて…………って姫ちゃん!?」


「ほひ?」


「何してんスか?!それ食べ物じゃないっスよ!?」


 ガゴリボゴリと口に放り込んだ物を噛み砕いていた僕を見て、柏山さんは焦った様子で僕に詰め寄ってくる。


「へもはほくへふっほふほいひいへふほ」


「ペッ!ペッするっス!姫ちゃんペッ!」


「ひやへふー!んぐんぐ……もう食べちゃいましたー!」


 僕は柏山さんに向かってそう言い、べーっと舌を出す。


「あーもうなにやってんスか!陣内先輩至急リーダーと天霧先輩を!」


「…………」


「陣内先輩!」


「……はっ!おっ、おう!」


 ポカーンとなっていた陣内さんが部屋を慌ただしく出ていくのを見ながら、僕はしれっとひょいっともう1粒その透明な物を口に放り込んだのだった。


 その後三浦先生に僕が食べたものは石英、つまりは水晶だと教えられ検査を受けた所、なんの異常も見つからないどころか、いつもよりも好調ということが発覚した。

 そのことから僕の、いや僕の竜としての食性が俗に言う鉱物食というものだと判明したのだった。

 そして数日後。


 「と、言うわけで水晶だけでなく色んな鉱石を用意してみた。とりあえず口に入れてもらって、食えるようなら食ってみてくれ」


 「……マジで言ってます?」


 「マジのマジ。大マジだ。お前が何を食えるのか、また食った後食べた鉱物の違いでお前の体がどんな感じの動きをするのか、是非とも興味がある」


 「な、なるほどぉ……」


 いやだからって……これ、一体いくら位するの?!


 悠々とそう語る三浦先生と僕の間にある机に置いてある様々な色の宝石を前に、僕は戦々恐々していた。

 しかし体は正直なもので……


 「その不安そうな表情から察するに、一体幾らするんだろうって考えてるんだろうが……鈴香、涎垂れてるぞ」


 「へ?うわわっ?!」


 い、いつの間に!?


 「み、みぐるしいところを……」


 「気にするな気にするな。だが涎を垂らすって事は、お前にとってこれは美味そうなんだろう?」


 くっ、認めたくない……!認めちゃったら間違いなく人間じゃなくなる……けど──────


 「ふゃい、おいしそうでしゅ……」


 食欲には勝てないっ!だってすっごくいい匂いするんだもん!

 こう、分かりやすく例えると、お腹減ってる時に目の前で美味しそうなお肉が焼かれてるみたいな感じ。


「さて、それじゃあまずはこの紫のやつから……」


「お、アメジストか。いい所選んだな」


「えへへ、それじゃあ頂きますっ!」


 そう言って僕は飴玉サイズの紫色の塊を口へ放り込む。


 「んんぅっ!」


 こ、これは!

 すっと鼻を抜ける爽やかな匂いとこの口のスースー感!ハッカみたいな感じでとっても爽快感があって食べてて気持ちがいい!

 味も甘い割に鉄っぽい感じだけど、舌に残るような感じじゃないし、たまに食べる分にはいいかも。


「結構気に入ったみたいだな鈴香」


「はいっ!結構美味しかったですっ!えっと、次食べていいですか?」


「おう、いいぞ」


「それじゃあー……これっ!頂きまーす!」


 そう言って僕が次に取ったのはアメジストの隣にあった、ものすごくキラキラしてる透明な水晶みたいな物だ。

 そしてそれを口へと放り込んだ僕は──────


 む、ちょっと硬い。でも噛み砕けないわけじゃっ?!


「お、次はダイヤか。鈴香もお目が高いなぁ……鈴香?」


「んうっ!?ぺっ!なにこれまっずっ!うぇぇぇぇ……」


「ちょっ!?大丈夫か鈴香?!」


「だいじょばないですよ!なんですかあれ!?この世の物とは思えない味でしたよ?!」


「えっ、ダイヤなのにか?」


「えっ、ダイヤだったんですか?」


 ダイヤを僕が吐き出した後そんなやり取りをして若干どころかだいぶ気まずい空気が流れたものの、その後も実験は続けられた。

 その後結果として、僕は鉱物食ではあるものの水晶の様な主成分が石英である鉱石しか受け付けないという事がわかったのであった。

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