17鱗目:報告会
「それでは今月の報告会を始めます。今回は我々が保護している子、天霧鈴香の研究結果に関する報告です」
午前3時という、流石に夜更かしな人も寝始める時間、日医会の中枢のとある一室にて三浦のその一言にこの部屋に集まっている3人がそれぞれ言葉を返す。
「何度も言うけど今更俺らの前でそんな堅苦しくするなって」
そう言ってわははと笑うのは柊一。
鈴香担当のチームでは三浦の部下だが、日医会の財務に関する総管理者である。見た目はちょっと渋い至って普通のおじちゃんだ。
「そうそう。確かに俺らの方が少し先輩だけど、今は立場的に対して変わらないんだ。もっとラフに行こうじゃないか」
テーブルに置かれた資料に目を通しながらそう言い、いたずらっぽく三浦にニヤリと笑いかけたのは厳武拓未。
日医会の現会長である偉丈夫の男であり、今年で55歳を迎えるこの中では1番の年長者だ。
「会長は私達より上だけどね。でも確かに私達の仲じゃない。ほらリラックスリラックス、気を抜いて頂戴」
厳武の前の席にて上品な仕草でくすくす笑いながら三浦に気を抜くように言うのは金城綾。
日医会の警備隊長である色っぽい長身のナイスバディな美しい女性だ。
そんな日医会の幹部の面々が揃う前で、三浦はため息をひとつついていつもの口調に戻す。
「とりあえず今現在大きく注目するのは3つある。まず1つは血液、次に鱗、最後に先日の脱皮の抜け殻だ。後おまけもあるがそれはほとんど気にしなくていい」
そう言ってこの場にいる3人に三浦は資料を配り、その資料には鈴香から採取、及び検査した際に見つけた物が簡単にまとめてあった。
「まず血液からは未知の物質が幾つか検出された。これらは生体に………あー。つまり、彼女の血液を何らかの形で摂取した生き物は寿命が伸びる事が発覚した」
「ありがとう三浦クン♪」
「いえ、どうせ金城先輩は簡単に言えと言うと思ったんで」
「分かってるじゃない♪ちなみに実験対象は?」
「寿命縮めたマウス。死にかけだったのが嘘みたいに今も動き回ってる」
そう礼を言いながらウインクしてくる金城に、至って冷静に説明をする三浦を見て厳武は苦笑を浮かべる。
「2つ目だが……鱗の説明は前に1度説明したよな?」
「あぁ、された」
「あれでしょ、すっごい耐久持ってたやつ。確か再現出来ないって言ってなかった?」
「そうだ、あれ自体の再現は無理だが……鱗を粉にして固体になる前の液体に混ぜると固体になった時に、鱗の耐久性の3分の2程度の耐久性を持つ事が分かった」
三浦はそこまで説明すると壁に貼り付けてある1枚の布を指さす。
すると金城は一瞬の内にどこからか取り出した彼女の愛用品である消音機構の着いたS&Wを構え、なんの躊躇もなくその布目掛けて発砲する。
しかし射出されたはずの凄まじい威力の弾は、布に傷を付けることすら出来ずカランと床に落ちた。
「ひゅう、この耐久性はやばいわね」
「だろ?一応粉にする方法も記載しといたが…………」
「なんというか、本当に運良く見つけたよ。濃塩酸かけてマイナス100度まで急速冷凍なんて。ダイヤコーティングされたドリルで傷1つつかないんだからな」
呆れたような声で反応する柊のその言葉に三浦は気を取り直してと言わんばかりに、ひとつ咳をして再び話し始める。
「とりあえず大きい報告は次で最後だが、彼女の抜け殻から薬効成分が抽出された」
「それは初耳だな、薬効成分と言ってるが…………どうせ普通じゃないんだろ?」
厳武が三浦にそう聞くと、三浦はポケットから粉の入った小瓶を取り出してそれを厳武に渡す。
「これが?」
「えぇ。そして会長が言った通り、これの効果は普通じゃありません。なんでもなんです」
「なんでもというと…………本当か?」
小瓶を片手に持ち、厳武が信じられないといった様に三浦へ聞き返すと、三浦は丁寧な口調で答えを返す。
「はい。これは俗に万能薬と呼ばれるものです。
物理的な怪我、後遺症でなければ癌や白血病といった難病や不治の病さえ直し、末期のもう目を覚ますことすらない人すら健康になります」
「…………………………」
「さっきのはマウスを使った実験の後、いくつかの症例の患者に処方した結果です。後遺症も見受けられませんでした」
そこまで三浦が説明すると厳武は手をふるわせ、噛み締めるようにして言葉を発した。
「…………感謝する」
「感謝をするなら鈴香へ」
「よかったね厳武会長、これでまた元気な孫ちゃんと遊べるようになるよ」
「あぁ……っ!」
そう言って厳武は涙を一筋流すのだった。
「最後に、これは不確定だからおまけみたいなもんだが、鈴香のあの馬鹿力といい飛行可能だったりするのは普通あの体型、大きさじゃ不可能だ」
「そういや、確か人が翼で飛ぶためには17メートルくらいの大きさが必要だったっけ?」
柊はうろ覚えながらも昔見た記事に書いてあったことを思い出し、そう三浦に言う。
「確かな。だが鈴香は5m程度の自前の翼で飛んで見せた。これらの普通じゃ有り得ないことを実現する鈴香の現実的でない力を俺は────」
「魔力、そう仮称付ける事にした」
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「きたよー、それでなぁに?会長」
あの後これらの技術をどうするかという話で会議は終わり、それぞれ解散した所で厳武は金城を呼び出していた。
「すまんが直接の命令いいか?」
「わざわざ訊く?勿論いいけどさ」
「ありがとう。それでは君と君直属の第1部隊、計16人に今後天霧鈴香の裏からの護衛及び、彼女に危害を加えようとする者の排除を命令する」
厳武は見る者によっては失神するのではないかという程の眼光で腕を組みながら金城を見る。
それを見ると金城はフフフと笑い、すっと表情から感情が抜け落ちる。そして足を1歩引き、了承したといわんばかりに深くお辞儀をした。
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